このにゃんこ、デキる…! ダメOLと家事完璧な巨大ネコの立場逆転ライフ1人と1匹暮らしに癒される

マンガ

公開日:2019/6/30

『デキるネコは今日も憂鬱』(山田ヒツジ/講談社)

 世の中にはいろんなネコがいるものだ。シャム猫のようにつるりと細身の短毛種やペルシャ猫のようなふわふわの毛の長毛種。概して犬より一回り小さいイメージだが、大型のネコだっている。アメリカ・メイン州が原産とされる品種「メインクーン」は、大きいものは体重10キロ、体長1メートルにもなるそうだ。でも、『デキるネコは今日も憂鬱』(山田ヒツジ/講談社)の主人公・諭吉は…。ちょっと巨大すぎないか?

 飼い主である生活力ゼロOL福澤幸来(さく)と巨大黒ネコ諭吉の日常を描いたこの作品、ニコニコ静画とpixivコミックで連載され大好評、ついに紙の本が発売された。が、こちらもいまや品薄状態、電子書籍でないとすぐに読めない状況だ。

 さてこの諭吉、雪の降る中、寒さに震えているところを幸来に拾われたのだが、そのときはごくごく普通のいたいけな子猫だった。それがいまや、飼い主の背を軽く越すほどに成長、どっしりとした安定感たっぷりのその姿は、ネコというよりすでにクマ! トレードマークはキュッと締めた腰のリボンが愛らしいエプロンで…と、こう書くと、猫を擬人化させたファンタジー漫画と勘違いされそうだが、そうじゃないところがこの作品のミソ。確かに諭吉はいつもエプロン姿(スーパーに出かけるときは猫毛が落ちないように配慮して割烹着!)だが、人語は話さないし、食事は猫缶。

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 猫用寝床として作られている民芸品「猫ちぐら」をプレゼントされると、ゴロゴロ喉を鳴らしてうれしがるし、猫のおやつである「ぢゅーる」(細長いビニール袋入りペーストで、チューチュー吸いながら食べる。昔懐かしい梅ジャムを細長くしたような感じ)には目がないし…。

 まさに正真正銘の「猫」なのだ。が、彼(彼女?)が普通の猫と違うのは、大きさもさることながら、家事能力がはんぱないこと。掃除洗濯料理裁縫DIY…、どれを取ってもパーフェクトなのだ!

 これに対して飼い主の幸来は、仕事はできるが、家事全般がまったくダメ。卵かけごはんでさえまともに作れない。その上お酒が大好きで、外ではそこそこきちんとしているのだが、家の中ではだらだら呑んだくれては床にごろん。片付けもせず寝てしまう。今でこそ諭吉がせっせと片付けてくれるから、快適に暮らしているが、かつては腐海と化した汚部屋の住人だった…。

 こんな1人と1匹の生活が、1ページ基本4コマの中に軽いタッチで淡々と、コミカルに描きだされる。家のことはおんぶにだっこ、気持ち的にもすっかり頼りきり、まさに諭吉に「甘え放題」の幸来と、やれやれとため息をつきながら、それでもうれしそうに幸来の世話を焼く諭吉。いいなあ、このモフモフであったかくて、無口だけど完璧に家事をこなしてくれて、礼儀正しくあいさつできて、「ちっ」と舌打ちするネコ。うちにも欲しい!

 決して会話が多いわけではないのだが、諭吉と幸来、ふたりの表情豊かなやりとりが絶妙にラブリーだ。イケメン潔癖性の部長やその姪など、サブキャラも存在感ばっちりだし、なによりも諭吉が作るご飯のおいしそうなこと…。読み出したらやめられない、何度も繰り返し読んでしまう。どっぷり作品に浸ったあとの、ほんわか幸せ感いっぱいの余韻も格別。癒し効果満点だ。ちょっと凹んでいる時などは、諭吉と幸来の掛け合いに笑っているうちに、いつの間にかじんわり心が温まって、ちょっと元気になっている。まさに「読む精神安定剤」ともいうべき1冊だ。

文=川嶋 由香里