香港デモを見て“日本に足りない何か”を感じなかったか? 滅びゆくこの国で僕たちはどう生きる

社会

公開日:2019/6/30

『続・ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ 16歳から始める思考者になるための社会学』(秋嶋亮/白馬社)

 6月、香港市民による「逃亡犯条例」改正案の完全撤回を求めた、200万人デモをはじめとする抗議行動が一定の成果をあげた。活動家の大学生で、“民主の女神”こと周庭(アグネス・チョウ)さんは、支援を求めるロビー活動を日本でも精力的にこなした。こうした、中国から主権と自由を守ろうとする彼ら香港人の必死の活動を目の当たりにし、“自分たちに欠けている何か”を感じ取った日本人も多かったのではないだろうか。

 政府に対して、民意を行動で示さなければいけない状況は、決して香港に限ったことではないだろう。日本の現実を考えてみても、皆さんにもきっと、「この件には強く反対したい」と心では真剣に思っていることが、おそらくひとつやふたつ、もしくはそれ以上あるはずだ。

 もし、「いや、思い浮かばない」「いったい、何が問題なの」と思う方は、ぜひ、『続・ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ 16歳から始める思考者になるための社会学』(秋嶋亮/白馬社)を手にしてみてほしい。

advertisement

●自由化ビジネスという名の下に行われる、多国籍企業による国家支配

 本書は、グローバリゼーションをテーマに精力的な情報発信を続けている著者が、響堂雪乃名義で書いた前作『ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ』(白馬社)に続き、日本と日本国民を覆いつつある分厚い暗雲──すなわち、さまざまな危機的状況──に言及した続編である。

 グローバリゼーションとは、自由化ビジネスという名の下に行われる事実上の植民地支配である。支配をしているのは多国籍企業で、支配されるのは国家だ。その影は、戦後すぐに日本にも忍び寄っており、着実に日本全土を覆いつくそうとしているという。

 本書の第1章では、その植民地化を加速させると著者が警告する「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」を取り上げ、続いて、政治、原発、メディア・マスコミ、世の中の仕組み、などについて論じている。

 本書の特徴を説明するにあたり、ある1ページの内容を引用して紹介しよう。

共同通信の世論調査によると内閣の支持率が50%近くもあります。しかしTPPによって主権を放棄し、種子法廃止によって伝統の農業を破壊し、民営化によって水道を外資に売り飛ばし、移民の解禁によって雇用を奪い、消費税率の引き上げによって不況を決定的にし、年金の運用失敗によって老後資金を消失させ、挙句に国土を世界の核ゴミ処理場にしようとする政権が、半数の国民に支持されているはずがありません。このように期待したとおりの回答が得られる(主婦や高齢者など情報力に乏しい)層から作為的に抽出したデータで作る世論調査を「偏った標本による虚偽」と言います。
(本書第4章「メディアという意識の牢獄から抜け出す」より引用)

●10代に向けて発信する、教科書には絶対載らない社会学

 本書はこのように、1ページごとの「用語解説書」のようなレイアウトになっている。つまり著者は、根拠のあるデータに基づいた「国民の知らない現実」を提示するにとどめており、その先は「自分で考えよう」というスタンスだ。

 引用したこのページには、日本国民が今まさに直面している、グローバリゼーションの主要な課題がギュッとコンパクトにまとめられている。「TPPがなぜ主権の放棄なのか」をはじめ、各課題の詳細はそれぞれ各章で言及しているので、ぜひ本書で確認してみてほしい。

 筆者は特に、種子法廃止問題に注目している。日本伝統のお米が、化学系多国籍企業に乗っ取られようとしているからだ。そして今後、人体にどう影響するのかわからない遺伝子組み換え種子などに関する表示義務も、米国同様に撤廃されようとしている。

 放射能汚染、ワクチン薬害なども含め、健康面でも国民利益を優先しないのであれば、もはや「日本政府とはグローバリゼーション優先の存在」だと判断せざるを得なくなる。

 著者がこうした教科書には絶対載らない社会学を10代に向けて発信するのは、若い世代にもっと現実に目を向けてもらい、未来の日本を変えていってほしいからだ。

 我が身を振り返ってみても、10代の頃は、「社会のことは大人に任せればいい、大人は子供を守る政治をするものだ」と思っていた。しかしどうやら、現実は違うようだ。

 隠される情報・真相を自ら探り当て、我が身は自分で守りつつ、ネットワークによって社会を変えていく時代なのである。

 そのために必要なのは、本書などを通して、日本が直面している課題をまず知ることである。その小さな第一歩から、よりよい日本と世界の未来づくりが始まるのだ。

文=町田光