TVや新聞が報道できない留学生のブラック就労問題! 借金漬けで一家離散のケースも…

社会

公開日:2019/6/28

『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(出井康博/KADOKAWA)

 飲食店やコンビニだけではない、物流倉庫や弁当工場など、人目に触れない場所でも多くの外国人が働いていて、私たちの便利で快適な生活を支えてくれていることを意識しているだろうか? そして、そんな彼らには快適な労働・生活環境が与えられていないこともあることを…。

 外国人労働者をめぐっては、「技能実習生の労働環境がブラックだ」というマスコミ報道を目にしたことがあるだろう。技能実習生とは、1993年から始まった「外国人技能実習制度」という在留資格を活用して日本で働いている外国人たちだ。

 しかし、この問題に詳しいフリージャーナリストの出井康博氏によれば、もっと過酷な状況にいるのが、肉体労働・単純労働などの現場を支える「偽装留学生」たちで、彼らの受難をほとんどの日本人は知らないという。

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■TVや新聞などが「留学生の就労現場のブラック問題」を報じない理由

 そんな出井氏の著書、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(KADOKAWA)は、その偽装留学生たちが直面している知られざる真実を伝えると同時に、移民国家化する日本の現状にも警鐘を鳴らすノンフィクションである。著者は本書の目的をこう記している。

“(偽装留学生たちは)不当な扱いや差別を受けても、日本語が不自由なため声すら上げられない。(技能)実習生をめぐる問題は頻繁に報じるテレビや新聞も、留学生には知らんぷりだ。そんな彼らの声なき声に耳を傾け、日本人が知らないところで起きている現実の是非を読者に問うのが本書の趣旨である。”(カッコ部分は筆者補足)

 偽装留学生とは、表向きは日本語学校の学生だが、実際にはアルバイトが目的の出稼ぎ留学生たちだ。東南アジアを中心とした国々から、多くの偽装留学生たちがやって来るようになったのは、2010年に政府が改定した「資格外活動制度」により、留学生に「週28時間以内」の労働が認められたからだ。

 著者によれば、現在32万人を超す留学生のうち、「少なくとも半数程度」が偽装留学生である可能性が高いという。もし16万人もいる偽装留学生が不当な扱いや差別を受けているとしたら、なぜ、テレビや新聞は報じないのだろうか?

 著者が明かすその理由を要約すると、どうやらそこには「新聞販売所のブラック問題」があるようだ。

 いまや新聞配達は、留学生たちがいなければ成立しないという。著者は、あるベトナム人留学生の配達現場に密着取材し、その様子を本書に記している。そこに浮かび上がるのは、かなりブラックな労働環境だ。日本人配達員との差別もいろいろあるが、いちばんの問題は「週28時間以内」という労働制限にもかかわらず、学校が休みになる期間は、大幅な残業を強いられ、残業代は法に触れるので支払われないことだ。

 こうした悪条件にも留学生たちが不満を口にできないのは、奨学会や販売所は彼らを母国へ強制送還する権利があるからだという。大手新聞やテレビが、実習生問題は報じても、留学生たちの悲惨な労働や生活の実態を報じないのは、こうした販売所の問題もあるからではと著者は指摘する。

■「平均150万円」の借金を抱えてやってくる留学生たち

 それでもまだ、新聞社の「奨学制度」で来日している留学生は恵まれているほうと著者は記す。なぜなら、その他大勢の偽装留学生たちは、「平均的に150万円」ほどの借金を背負って来日しているのが実態なのだ。留学斡旋業者、嘘でねつ造したビザ申請書類を作成するブローカーなどへの手数料の他に、日本語学校への前払い金などがこうした借金の内訳だ。

 著者は日本とベトナム両国での取材や、ブータン人留学生たちへの取材を通して、「借金漬けにされて働かされる、まさに人身売買ビジネス」の裏側や、実習生問題における利益構造などにも深くメスを入れていくので、ぜひ本書でこの内容をご確認いただきたい。

 そこには日本の受け入れ先である日本語学校や企業や地方自治体、さらには政府の政策も関係している。「全然知らなかった」「留学生たちが勝手にやっていること」では済まされないのである。

 本書では、自宅を借金の担保にしたために一家離散してしまったベトナム人のケースや、昨年12月にブータン人留学生が福岡で自殺した事件の背景についても記されている。借金とブラック労働にあえぐ偽装留学生たちの抱える闇は、もはや誰もが無視できないほどに深刻化している。

 こうした外国人労働者問題の根幹は、「移民政策は取らない」としつつも、単純労働などを中心に外国人労働力の確保を行おうとしている現政権にある、と著者は指摘する。今後さらに外国人労働者が増え、在留年数の更新や日本人との結婚などによる永住者増も想定され、日本は事実上の移民国家化する可能性がある。そうなる前に、しっかりとした議論が必要だと著者は訴える。

 報道されない偽装留学生たちの問題、さらには日本の将来の問題。本書は今私たちが知るべき社会の実態を教えてくれる。本書をきっかけに、働く留学生たちにどうしたら日本を「嫌な国」ではなく「好きな国」だと思ってもらえるのか、自分にできることを考えてみたい。

文=町田光