心臓をくれた相手に恋をする――これほどまで残酷で透明な恋愛に奇跡は起こるのか?

文芸・カルチャー

2019/6/28

『逢う日、花咲く。』(青海野灰/KADOKAWA メディアワークス文庫)

 3年前、13歳の時に心臓の移植手術を受けた八月朔日行兎(ほずみいくと)は、その直後から自分が女の子になった夢を見るようになる。夢の中で彼は16歳の少女・鈴城葵花(すずしろあいか)となって、家族や友人に囲まれた幸せな生活を送っている。葵花の人生を追体験するうち行兎は彼女に惹かれていき、その死因が“自殺”と知って衝撃を受ける――。

 応募総数4843作品、本年度の「電撃小説大賞」で選考委員の心を最も揺さぶり≪選考委員奨励賞≫を受賞した純度100パーセントのラブストーリー『逢う日、花咲く。』(KADOKAWA メディアワークス文庫)。

 臓器移植と記憶転移という今日的なテーマに材を採り、行兎視点によるパートと、生前の葵花視点によるパートを交互に積み重ねていく重層的な構成をとっている。

 この2人は多くの点で対照的だ。

 奇跡的なほど早期にドナーが見つかり、心臓移植の手術も無事に成功した行兎。これから何十年間も生きることができる体になったというのに、日々を無気力無感動に過ごしている。行兎はその鋭敏な感受性ゆえに、誰かの心臓をもらって自分が生き延びたということに、どうしようもない後ろめたさを感じている。

 一方、明るくて外交的な葵花は毎日を一所懸命に生きている。親友とも家族とも良好な関係を築き、高校では演劇部に所属し、きらきらと輝くような青春を充実させている。

 生者である行兎の方が死んだように生きていて、死者である葵花の方が活力に充ちているという皮肉。人間が生きるには希望が必要という、当たり前のことながら普段は見落としがちな真理が丁寧な筆致で丹念に紡がれていく。

 また、本作にはSF的ともいえる独創的な趣向が凝らされている。彼らは心臓を介して時空を超えて文字どおり“心の中”で会話をすることができるのだ。行兎パートでは、彼の心に葵花が話しかけてきて、葵花パートでは、彼女の心の中に行兎が昔から存在している男の子となっている。

 実際に会ったこともなければ、触れることもできなく、姿かたちも知らない相手。2人はひたすらに会話を通して相手の苦しみや葛藤を理解し合い、関係を深めていく。

 物語は進行するにつれ、葵花がなぜ自ら命を絶つに至ったのかを行兎が探るミステリーの色合いも加わる。鍵を握るのは葵花の高校の演劇部顧問教師・星野である。著者曰く「第三の主人公」というのも納得の存在感を放つ星野のリアリティが、この作品を愛し合う者同士だけの完結した世界とはさせていない。葵花、行兎、そして星野の三者三様の感情が絡み合い、奇妙な三角関係のような、緊密な心理ドラマのような様相も呈していく。

 葵花の死の真相に行兎が近づくのと並行して、彼の中である決意が固まってゆく。生きる意味を見出せない彼が唯一、愛する者のためにできること。それはたまらないほど切ない、命懸けの献身だ。

 心臓をくれた相手に恋をする――。実ることの絶対不可能なこの恋愛は、どのようなラストシーンに着地するのか。ぜひ読んでみて、あなたの心を震わせてほしい。

文=皆川ちか

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