「おならはどうして恥ずかしい?」 科学と雑学で迫る、一冊まるごとおならの本!

健康・美容

公開日:2019/6/30

キ『おならのサイエンス』(ステファン・ゲイツ:著、関麻衣子:訳/柏書房)

 おならの語源は案外と複雑だ。一部の辞典では、「鳴らす」の連用形を名詞化した「鳴らし」に接頭語を付けたと解説しているが、「お」に「排出する」という意味があるとする古典語を由来にした説や、室町時代の宮中などに仕える女官(女房)の間で「お」を付けるのが流行った女房言葉の一つという説もある。してみると、音が鳴るのが共通だとすれば、音のしない「すかし屁(すかしっぺ)」は、おならとは別ということになる。こういうくだらないことを考えているときに限って、運命の出逢いというものがある。私が『おならのサイエンス』(ステファン・ゲイツ:著、関麻衣子:訳/柏書房)を見つけたのは、まさに神のお導きというものであろう。

 いささか大仰な書き出しとなったのは、本書の序文に影響されたからにほかならない。おならとは、「人間性を声高に叫ぶ、ニオイつきの素晴らしき咆哮。あなたや私の命の力強さ、(中略)その甘美なクサさは、われわれの真の美しさを証明している」などと、思いつく限りの言葉で讃えているくらいだ。おならの本といえば子ども向けの絵本か、健康系の書籍が多い中で、ここまでおならを前向きにとらえて賛美し、科学や文学などの視点で横断的に語っているのは初めて目にした。

 科学の目で見れば、おならの約75%は食事などの際に飲み込んだ空気である。呼吸として息を吸うのと違うのは、呼吸で吸い込む空気は肺に運ばれるのに対して、胃腸に空気が運ばれるという点。おならの25%は消化の過程で発生するガスで、そのほとんどが腸内細菌が食物繊維を分解することで作られる。意外なことに、おならの成分の99%は二酸化炭素や水素、メタンなどの無臭の成分でできており、ニオイの素はわずか1%程度の硫化水素などだそうだ。ちなみに酸素は血液に取り込まれて全身を巡るため、おならには含まれていない。ということは、地球温暖化を防ぐために二酸化炭素の産出量を減らそうとしても、人間を始めとした動物の多くが酸素を吸い二酸化炭素を排出している訳だ。

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 もちろん、おならをしない動物もいる。身近なところでは、鳥類はガスを発生させる細菌を体内に持っていないうえ消化のプロセスが非常に早い。ペットとして飼われる金魚は、腸内にガスを発生させる細菌を持ってはいるものの、げっぷとして出すからおならはしない。やはり腸内細菌がガスの発生に関わっているので、知恵ある人間として出すおならの量を減らす方法を考えてみよう。昨今では食事の際に血糖値が急激に上がると健康に良くないからと単糖類の砂糖やブドウ糖などを避け、イモ類や豆類といった複合糖質を摂ることが推奨されているが、複合糖質はガスを発生させやすいから、それらを食べるのを避けるのが確実。ただし、本書ではおならの出ない食生活は「必ずしも体にいいとは限らない」と警告している。

 ところで、おならに男女の差はあるのだろうか。1998年の研究結果によれば、女性のおならは男性のものよりクサいだけでなく、ガスの濃度が非常に高いうえ含まれる硫化水素の濃度は男性の200%以上に及ぶ。一方、おならの量を比較すると男性の方が多く1回の量は女性の約1.3倍、おならの回数は52対35と圧倒的に男性が優位になっている。女性読者のために付け加えておくと、毒物にもなる硫化水素は少量であれば細胞を保護する効果があるので、老化予防に役立つ可能性がある。本書では「肺からどれだけの硫化水素を吸収できるかは未知数」としているが、自分のおならを吸い込むのは美容と健康に良いかもしれないのだ。

 他にも、おならを増やす方法とか、一発のおならのせいで1万人もの人たちが亡くなった歴史上の事件など、おならについて誰かに教えたくなる話題がギュッと濃縮されている。ただし相手とTPOを選ばずに、おならについて熱く語った後どうなるか、私は責任を持てない。「出物腫れ物所嫌わず」という言葉があるが出す時には注意するよう重ねて忠告しておく。

文=清水銀嶺