元文科省トップ、東京新聞記者、外国人特派員が明かす、日本に蔓延る『同調圧力』の恐ろしさ

社会

2019/7/1

『同調圧力』(望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー/角川新書)

 6月28日より公開の映画『新聞記者』ほど、心をザワつかせる映画もないかもしれない。「モリカケ問題」や「詩織さん事件」を連想させる最近の事件を背景に、政権のメディアコントロールに果敢に立ち向かう一人の女性新聞記者と、コントロールする側の責務に苦悩する若き官僚を描く映画が暴くのは、権力とメディアの現在進行形の「たった今」。極上のサスペンス・エンタテインメントでありながら、「これがリアルな日本なの? ホントにこんなにヒドいの?」と、見る者の心を揺さぶらずにおかない問題作だ。

 実はその真実を検証するための格好の本がある。映画の原案となった東京新聞記者の望月衣塑子さんが自らの生き方を綴った『新聞記者』(角川新書)、さらにこの映画がきっかけで生まれた新刊『同調圧力』(角川新書)だ。著者は望月さんの他、元文部科学省トップ前川喜平さん、ニューヨークタイムズ元東京支局長マーティン・ファクラーさんの3人。いずれも報道の最前線や官僚組織の内部において、和を乱すことを嫌う「同調圧力」に屈せず、自らの意見を堂々と発信してきた面々だ。

 おそらく望月記者のことを、菅官房長官相手に果敢に質問する女性記者として記憶している方も多いだろう。実はそうした勇気の一方で、彼女は官邸からその存在を排除しようとする様々な嫌がらせ(その行動を非難するレターの配布、質問の制限および妨害など)を執拗に繰り返されてきた。本書『同調圧力』には、そうした生々しい圧力の実態とそれに屈せず闘う日々、さらに彼女と思いを同じくする人々との交流を通じてあらためて自らのすべきことを見つめ直していく。そして「だれのために報道するのか。何をするために記者をしているのか。原点に立ち返れば、同調圧力が頭をかすめることはない」と強い矜持を語る。

 また前川喜平さんは、加計学園問題において「あったものをなかったことにはできない」と、文科省のトップだった当時に受けた官邸からの圧力を告発した人物。本書では自らの官僚としての経験をもとに、文科省を含めた公務員の思考法や行動原理を説明し、ほぼ現政権の言いなりになってしまっている現状を分析しつつ未来を憂う。教育現場に介入する政治的圧力への危機意識など、我々が共有すべき問題もかなり多い。

 一方、マーティン・ファクラーさんは外国人特派員という「外」からの目線で、権力に近い側に寄り添いながら情報を得るアクセス・ジャーナリズムが横行する日本の状況に警鐘を鳴らす。ジャーナリズム先進国であるアメリカでは、メディアは権力に怯まず、むしろ権力と真っ向から対立してでも「真実」を伝えることに存在意義をおき、最近はスクープより調査報道に力を入れ読者の反応も上がっているという。翻って日本の状況を考えた時、私たち自身が「メディアの情報を鵜呑みにすること」の危険性も実感することだろう。

 心の中では「おかしい」と思うのに、それを素直に表現すると色々めんどくさそう…学校や職場、あるいはネット空間など、本来は自由な空間のはずなのに無意識の同調圧力で発言を控えた、なんて経験は誰にでもあるのではないだろうか。本書が与えてくれるのは、そんな戸惑いから一歩先に行くための「勇気」だ。たとえ一人であろうとも、その勇気が社会を変える力を持つこともあると、彼らは身をもって教えてくれる。孤立を恐れず、自分を貫いた先には「応援してくれる人がたくさんいました。一歩を踏み出すことで、見えてくる景色は変わってきます」と望月さん。その言葉が頼もしい。

文=新井理恵