小象を狙って銃乱射、顔面ごと象牙を抉り取る…象の密猟に加担する日本の責任は?

社会

更新日:2019/7/2

『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(三浦英之/小学館)

 1940年代には500万頭いたとされるアフリカゾウは、2010年代にはその10分の1の50万頭にまで激減しており、このまま行けば、野生のアフリカゾウはあと10数年で絶滅してしまうという。激減したおもな原因は象牙を採るための密猟である。年間約3万頭もの象が密猟により死に追いやられているのだ。しかも、その一因を日本が作りだしていると知れば驚く人も多いだろう。

 そんな、象牙をめぐる密猟・密輸の闇に迫ったルポルタージュが、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(三浦英之/小学館)だ。著者は朝日新聞記者で、『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』(集英社)で第13回開高健ノンフィクション賞を受賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁との共著/集英社)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞したルポライターでもある。

■目を覆いたくなる、凄惨なゾウ密猟の現場跡

 アフリカゾウの密猟では、密猟者たちはゾウの群れを見つけると、まず小さな子ゾウを狙って自動小銃を乱射する。子ゾウがケガを負って動けなくなると、母ゾウやメトリアーチ(群れを率いるリーダー格の雌ゾウ)もその場から動かなくなるので、そこでゆっくりと時間をかけて母ゾウや他のゾウたちを殺してから牙を奪うのだという。

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 その牙の奪い方も極めて残酷である。チェーンソーのような工具を使って顔面をえぐり取り、牙を根元から奪っていくのだ。本書には、顔面の前半分を乱暴に削り取られ、四肢をがっくりと地面に落としたゾウの遺骸の目を覆いたくなるような凄惨な写真も、事実をありのままに伝えるために載せられている。

■日本は象牙闇取引の温床になっている!?

 そうやって奪われた象牙は、密輸業者に高額で買い取られ、日本や中国に運ばれていく。日本では象牙製のハンコは「幸運を呼ぶ」などといわれ、いまでも人気が高い。最盛期の1984年には約474トンもの象牙が日本に荷揚げされ、日本は世界の象牙の4割を消費する「象牙消費大国」であった。さらに2000年代後半からは、爆発的な経済成長を遂げた中国でも象牙が高い人気を呼び、象牙の密猟・密輸入に手を染めていったという。

 ただ、2016年に開かれたワシントン条約締約国会議以降、高まる国際世論の批判を受けて、中国では少なくとも表向き国内市場での象牙の取引は全面禁止となった。それなのに、日本では象牙の“国内取引”はまだ合法なのだ。日本では、ワシントン条約で象牙の国際取引が禁止された1989年より前に輸入された象牙に限り、国内取引が可能となっている。つまり、建前上は国内在庫が取引されているだけという立場なのである。だが、国内で流通している象牙のどれが合法的なもので、どれが違法な手段で採取された密輸品なのかを判別する手段は存在しない。

 さらに国際問題となっているのが、日本のインターネット・オークションサイトである。日本のあるオークションサイトでは2014年からの3年間だけで、約1万6500件、総重量約12トンもの象牙が落札されている。これに加えて、同期間には約5万5000本もの象牙印章が落札されていた。ある意味、闇売買の温床となっているのだ。

 ここまでくれば、日本がアフリカゾウ激減の大きな原因のひとつとなっていることが、よくわかるだろう。当然、本書では日本も象牙の国内取引を禁止すべきだと訴える。ただ同時に、著者は象牙の取引を禁止しても、アフリカゾウの絶滅は避けられないかもしれないと考えを巡らせる。60年前には2億人だったアフリカの人口は、現在11億人にまで膨らんでおり、さらに40年後には20億人、100年後には40億人に増加すると予測されている。遅かれ早かれ、野生のゾウが生きていける自然環境が消滅してしまうかもしれないのだ。人間と自然の共生についてもっと根本的な部分から考え直すべきだろう。

文=奈落一騎/バーネット