「死んだおばあちゃん」「神々の食物」──コレら、料理の名前なんです!

マンガ

公開日:2019/7/3

『この社会主義グルメがすごい!!』(内田弘樹:原著、河内和泉:著/KADOKAWA)

 かつて「ソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)」という国が存在した。複数の共和国による連邦国家であったが、1991年に解体が宣言され、事実上崩壊している。アメリカと並んでいた超大国の崩壊はいやが上にも時代の流れを感じさせた。『この社会主義グルメがすごい!!』(内田弘樹:原著、河内和泉:著/KADOKAWA)は、現代に「ソ連」の生まれ変わりとして現れた少女「トロイカ」が、必死に社会主義の復興を目指すグルメコミックである。

 主人公の大学生・村上真一は、自らをソ連の生まれ変わりというトロイカと出会う。街で社会主義を啓蒙するが誰も聞いてくれず、主人公に泣いて助けを求める。彼は食事を作るという条件でトロイカの同居を許し、トロイカは早速「社会主義グルメ」を作り始めた。その料理の名は──「死んだおばあちゃん」である。

 名前の由来が「見た目が『死んだおばあちゃん』みたいに酷いから」というこの料理は、「ブラッドソーセージ」という「家畜の血が混ぜ込んであるソーセージ」をタマネギやセロリなどと炒め、ふかしポテトやザワークラウトを付け合わせに盛り付けて完成。気になる味は主人公いわく「本体はあんま美味しくないけど…、ザワークラウトと一緒に食べればなんとかって感じだな…」とか。本来なら廃棄する動物の血を使った「ブラッドソーセージ」のエコな部分を主張するトロイカは、まずは社会主義グルメを宣伝するところから始めようと画策するのであった。

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 そんなトロイカの前に、思わぬ強敵が出現する。主人公の部屋に突如現れたその少女「オッシー」は、かつてソ連の衛星国であった「東ドイツ」の生まれ変わりだという。「社会主義を国是としても、ロシア人の奴隷にはならない」とトロイカを敵視するオッシーは、主人公の許で料理を振る舞うと宣言。料理名は──「神々の食物」という。

 この料理はスイーツで、東ドイツで人気だったというゼリーである。赤と黄色と緑の3色ゼリーに、メロン味と思って緑のゼリーを口にした主人公は、その味の薬草っぽさに絶句。なんとそのゼリー、材料は「ヴァルトマイスター」という薬草だったのだ。ちなみに赤のゼリーは「ラズベリー」、黄色は「レモン」とこちらは普通。なお名前の由来は諸説あれど、ハッキリしたことは不明という。

 ケンカをしながらも仲良く社会主義グルメの普及を目指すふたりだったが、さらなる強敵が現れる。「アオザイ」と名乗るその少女は、「ベトナム社会主義共和国」の生霊だという。なぜ生霊なのかといえば、もちろんベトナムが今も健在の国であるから。「お米が食べたい」という主人公の希望に、アオザイは「ベルリン風ブンチャー」を供するのだった。

 この料理はお米の麺を使用しており、揚げ春巻きにチャーシュー、パクチーやレタスなどと一緒にタレをかけて食べるもの。なぜ「ベルリン風」なのかといえば、かつてベトナムは東ドイツと経済協定を結んでおり、多数の労働者を送っていた。しかし「東ドイツ崩壊」と共に職を失い、ドイツに取り残されたベトナム人たちは飲食店経営などで必死に生計を立てたという。「ベルリン風ブンチャー」は、彼らの頑張りの象徴でもあったのである。

 資本主義国家の日本では、社会主義の思想を広めるのは難しいかもしれない。しかし料理ならば、多国籍を受け入れる土壌があるため可能だと思える。できることからコツコツと。そうすればいつかは、トロイカたちの目指す世界が実現する……かもしれない。

文=木谷誠