孤独死の現場を清掃する「特殊清掃員」の仕事とは。“不浄”を拭い原状回復する清掃員の物語

マンガ

更新日:2019/7/4

『不浄を拭うひと』(沖田×華:著、天池康夫:原案協力/ぶんか社)

 夏になるとテレビから流れてくる高齢者の孤独死ニュースに毎年、胸が痛くなる。エアコンもかけられていない部屋の一室で誰にも気づかれず、ひっそりと亡くなったひとつの命。そんな悲しい命の終わり方が報道されるたび、故人の人生や死に至らなければならなかった理由に思いをはせてしまう。そして同時に、終の棲家となった一室を元通り原状回復させる「特殊清掃」という職に深い敬意を払いたくもなる。

「特殊清掃」とは、孤独死などの変死体があった場所を、屋内外問わず原状回復させる仕事。そんななかなか公になりにくい職業にスポットを当てた『不浄を拭うひと』(沖田×華:著、天池康夫:原案協力/ぶんか社)は仕事内容だけでなく、生前の故人の想いにも注目した1冊だ。

 主人公の山田正人(39)は脱サラをし、特殊清掃員に。もともと霊感体質だった正人は仕事をはじめてからさらに霊感が強くなり、はじめの頃は自宅で心霊現象を体験したこともあった。

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 そして今でも故人の室内を清掃しようとすると“見えない人”に妨害をされ、中に入れないことがある。そんな時は知人の紹介で知り合った住職に部屋の前でお祓いをしてもらい、清掃に臨むのだ。

 6畳一間が床いっぱいの女性用下着で埋め尽くされた男性の部屋。背広姿のまま両手首を切って自殺した男性が宿泊した高級ホテル…正人が特殊清掃に入る場所は実にさまざまだ。しかし、どの場所にも共通しているのが、部屋から生前の故人の想いが溢れだしているということ。誰にも気づかれず、ひっそりと亡くなっていった故人の暮らしに正人は思いを巡らせながら職務を全うする。

 さまざまな状態の中で死を迎えた人々が残した「生活の跡」。それは一見、汚くて、ただのゴミのように思えるかもしれない。だが、それらは故人が必死に生き抜こうとした証だ。その痕跡を丁寧に拭いながら、新たな人が人生をはじめられるような住み家に原状回復していく正人を見ていると、特殊清掃という仕事の偉大さを実感する。

 私たちはきっと大半の人が、特殊清掃のお世話になると思いながら生きてなどいない。特殊清掃員や特殊清掃される部屋、そこに住んでいた故人は全て自分とは遠いところに存在しているように思えてしまうだろう。だが、孤立し、誰にも知られないまま命を落とす可能性は誰にでも等しくあるように思える。現在、家族と同居していても、数年先は未知数であり、人生がいくら軌道に乗っていても予想外の出来事で思わぬ憂き目にあうことだってある。そう考えると、孤独死や特殊清掃はどこか遠いところで起きていることではなく、いつでも自分の身近にあるものなのだと思えてはこないだろうか。

 シリアスなテーマを軽快かつ丁寧に描いている本作は、命の終え方を自分の胸に問うきっかけを与えてくれもする。人生の終わりをどこでどう迎えるのかと考えて立ち止まってみることで防げる孤立死や孤独死は、きっとあるはずだ。

 ちなみに最新巻となる第3巻が、2019年7月1日に各電子書籍ストアにて発売された。こちらもぜひチェックしながら、人知れず亡くなっていった命に少し思いをはせてみてほしい。

文=古川諭香