『ONE PIECE 93』ルフィの覇気のさらなる進化と黒刀の秘密に触れたゾロ――2人の悲運な死と打倒カイドウの希望を見出す!【ネタバレあり】

マンガ

公開日:2019/7/5

『ONE-PIECE 93』(尾田栄一郎/集英社)

 事態は悪くなる一方だ。ワノ国で四皇カイドウと将軍オロチを討ち取るべく奮戦するルフィ一行。しかし『ONE-PIECE 93』(尾田栄一郎/集英社)では、目を覆いたくなる場面がいくつもあった。

■ワノ国唯一の花魁・小紫の最期と残る謎

 自身の城で家臣や遊女と飲んで騒いで、愚かな宴を楽しんでいたオロチ。ところが光月おでんの妻トキが言い残した“復讐の年”について突如語り始め、家臣たちにクスクス笑われてしまう。オロチはおでんの家来たちによる復讐を恐れ、家臣はそれをまったく信じず主君を「小心」と陰でなじったのだ。この両者の意識の差が後々の展開を大きく左右するだろう。

 それはともかく、この様子を見て思わず笑い声を上げたのが、花魁の禿(=将来遊女になるため修業をする少女)おトコだった。怒り狂ったオロチはおトコに斬りかかろうとしたが、それを制したのがなんとワノ国唯一の花魁・小紫だった。92巻で悪女の片鱗を見せていたが、93巻では一転、殿様の前で笑い声すら抑えられない少女をかばう。そればかりか、オロチの部下に切り捨てられてしまう。ワノ国の男たちの羨望の的だった彼女が、こんなことで最期を迎えてしまうとは…。静かに横たわる小紫の不憫で美しい横顔に、この国の狂気を感じずにはいられない。

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 ここで注目すべきは、錦えもんたちが密かに配っていた「判じ絵」が小紫のそばに落ちていたこと。判じ絵を手にする者は打倒オロチを目論んでいる。…これはいったい何を意味するのか。彼女の死が今後にどうつながっていくのだろうか。

■オロチに銃殺されたえびす町の人気者トの康の壮絶な最期

 さらに悲運な死を遂げた男がいる。92巻で登場し、貧しくても笑顔で生きる強さをゾロに見せたトの康だ。彼は花の都の“おこぼれ”で暮らす「えびす町」に住んでいて、とても貧しい。しかしいつも明るく生きていた。そればかりかえびす町の人々に食べ物を分け、希望を与えていた。彼の一人娘はおトコといい、都に売られて働いているというのに、おトコが送る仕送りを周囲のためにほとんど使った。彼はえびす町のみんなから慕われていた。

 彼のような男がオロチの家臣に一人でもいたら、こんな暗い影を落とす国にはならなかっただろう。しかしワノ国の良心トの康も本作の最後で磔にされ、銃で処刑されてしまう。それも将軍オロチ直々の手にかかって。

 なぜ彼がオロチの手で直々に処刑されたのか、それは本作に譲りたい。とにかくこの場面を読むと、ワノ国の人々の怒りと悲しみ、そして絶望が痛いほど伝わる。笑顔のまま銃弾を受けるトの康の最期と、笑いながら泣き叫ぶえびす町の人々、なにより愛娘のおトコの悲痛な叫び…。地獄絵図とはこのことかもしれない。

 本作を読むと分かるが、トの康はただオロチに処刑されたわけではない。愚かな将軍に反旗を翻す ため、命をかけて彼にしかできない使命を果たした。そしてなぜえびす町の人々が悲しいときでも笑っているのか、カイドウとオロチの悪行も明らかになった。

 この怒りを解き放てるのは、やはりあの男しかいない。一刻も早くこいつらをぶっ飛ばしてほしい。次巻が待てなくて仕方ない。

■ルフィとゾロがさらに強くなるかもしれない

 ワノ国の狂気に目を覆いたくなる 93巻だが、希望も目にできた。まずルフィの覇気だ。92巻では四皇に瞬殺されて、圧倒的な実力差を見せつけられた。絶望に思わず頭を抱えた人も多いだろう が、ルフィはまだレイリーほど覇気を扱えていないことを思い出してほしい。

 レイリーのように“相手を触らずにぶっ飛ばす武装色の覇気”を使えるようになれば、カイドウにも対抗できるはずだ。そこでルフィはワノ国のヤクザの元大親分と一緒に、百獣海賊団の大看板“疫災のクイーン”による処刑“大相撲地獄”をくぐりぬけながら、さらなる覇気を習得することになった。シリアスなストーリーが続く中、ルフィの周りだけは相変わらずめちゃくちゃだ。思わず笑顔がこぼれる。

 またゾロにも光明が見えた。ワノ国の宝である名刀「秋水」を取り返すべく、ある男と闘うシーンでゾロはこんなことを耳にする。

秋水は「黒刀」だぞ!!リューマの歴戦にて成った刀!!

 とても興味深いセリフだ。本作ではこれ以上の言及はないので分かりかねる。しかし想像は止まらない。読者は世界最強の剣豪ミホークが持つ黒刀を覚えているだろうか? 頂上戦争にて、遠く離れた氷山さえも真っ二つにする切れ味を見せつけてルフィを戦慄させた。あの凄まじい切れ味を“黒刀に成る”ことで生み出せるのならば…。ゾロはまだまだ強くなるだろう。

 さらにもう1つ、本作でサンジが一度ついえた“悲願の夢”を叶えることになる。それは女湯での出来事なのだが…これは本作で譲ろう…というよりどうでもいいかな…。

 張り巡らされる伏線と少しずつ解き明かされるワノ国のストーリー。一進一退を繰り返しながら、ルフィ一行はカイドウと将軍オロチに打ち勝つべく闘う。その姿に読者の心が熱くなるのは間違いない。歴戦のボスに勝利したあの歓喜のシーンが少しずつ近づく予感をさせる、苦しさの中に希望を見出す一幕が本作にあった。

文=いのうえゆきひろ