それ、本当に必要ですか?「やめる」ことで身軽になって正直に生きよう

暮らし

公開日:2019/7/7

『大人になってやめたこと』(一田憲子/扶桑社)

 人は大人になるにつれさまざまな経験を積み、知識を増やし、できることが増えていく。自分なりのこだわりが増えていくと、「これじゃないとダメ」というものさしができる。その一方で、世界が広がると同時にいろいろなものを身につけすぎて、生きづらいと感じることもあるだろう。本書『大人になってやめたこと』(一田憲子/扶桑社)の著者一田憲子さんは、自身が50代になったことをきっかけに、今までのこだわりや日々の習慣などが実はいらないんじゃないかと思うようになったという。食べ物やおしゃれに関するこだわりや思い癖などを一つ一つやめていき、どんどん身軽になったそうだ。

 一田さんは人気のライフスタイル雑誌『暮らしのおへそ』の編集ディレクターだ。仕事柄たくさんの人や物に出会い、良いもの(人)を読者に紹介する仕事をしている。これまでに出会った数知れない人や物の影響を受けて彼女自身が形成されていったといっても過言ではないだろう。若い頃は周りの世界に自分を合わせていくのが中心だったが、人生の折り返し地点を過ぎる頃からものさしを自分に置き、自分のものさしで人生を定義していこうと考えたという。

 そんな彼女がやめたことの一つが「無理して欠点を直すこと」。若い頃から周りを気にしすぎるタイプだった彼女は、人に会った後「あんなことしなければよかった」「嫌われたらどうしよう」と思い悩むことが多かったそう。常に周りの人の目を気にして、他人のものさしで何でも測るのが大きなコンプレックスだったともいう。しかし、年齢を重ねてくると、「人の目を気にする=人の心に自分の心を重ねる」ことだと気付いたそうだ。ちょっと見方を変えるだけで、自分の欠点が長所に感じた瞬間だったという。一田さん曰く、欠点とは自分でも気づかないうちに「ついしてしまっていること」。だったら、無理して直す必要はないのではないだろうかと。それよりも大切なのは、欠点だと思っている点に別の方向から光を当てることだという。「せっかち=段取り上手」「人見知り=一人でじっくり物事を考える」など、あらゆる欠点を長所に変換していけばもの自分の中に潜むすごいパワーに気づけるのかもしれない。

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 さらに、彼女がやめたのは「じゃがいもを丸ごと茹でること」。ホクホクのじゃがいも料理を作りたければ、じゃがいもは水から皮付きのまま茹でるのが基本とされている。煮崩れないように弱火にすれば30分以上もかかるので、時間がない人には敬遠される方法だろう。一田さんもじゃがいも料理が好きなのに、忙しい日々の中でなかなか作る気になれなかった。そんなある日、試しにじゃがいもの皮をむいてカットして茹でてみたらほんの5分程度で茹で上がり感動したという。若い頃よりもだんだん「まあまあ正解」でもいいと思えるようになり、すっと楽になったそうだ。節約できた時間で他のことができイライラも軽減されるなら、まあまあ正解は大いに結構だろう。

 本書では他にも、彼女のやめたことがたくさん紹介されている。

・「誰かと一緒」をやめる
・明日でいいことは今日しない
・ファンデーションをやめる
・高級下着をやめる
・新しい調味料を買うのをやめる
・小分け冷凍をやめる
・完璧に掃除することをやめる
・新聞をやめる

 中でも印象深かったのが「夜、仕事をするのをやめる」だった。私自身、自宅で仕事をしているとつい夜遅くまでパソコンと向き合い、気づけば深夜、ということもある。そんなときは翌日の午前中のパフォーマンスが圧倒的に低下し、生活のリズムが崩れてしまう。本書を読んで試しに夕食後は仕事をしないと決めたところ、寝るまでの時間に読書をしたり映画を見たりと有意義な時間が過ごせるようになった。その分朝は早起きして仕事をするので、仕事の効率もグンとアップしたように思う。

 何かをやめることはとても勇気がいる。今まで続けてきた習慣も、改めて見直してみると必要じゃなかったというものは意外と多いだろう。やめることで新しい発見も多く、結果豊かな人生が送れるような気がする。

文=トキタリコ