順風満帆ではない時期を乗り越えて手に入れたしあわせ――引田夫妻のしあわせのつくり方とは?

暮らし

更新日:2019/7/7

『しあわせのつくり方』(引田かおり、引田ターセン/KADOKAWA)

 引田かおりさんと引田ターセンさんはお互いのことを「カーリン」「ターセン」と呼び合う仲良し夫婦。二人は吉祥寺で人気のパン屋とギャラリーを営んでいて、雑誌などでも仲の良い理想の夫婦としてよく紹介されている。著書『しあわせな二人』『二人のおうち』では、夫婦の生活を紹介して話題を呼んだ。そして3冊目となる本書『しあわせのつくり方』(引田かおり、引田ターセン/KADOKAWA)は、そんなしあわせなふたりの関係がどういう歴史を経てつくられたのかに焦点を当てている。

 意外に思えたが、彼らの結婚生活はすべてが順風満帆ではなかったという。夫婦生活が上手く行き始めたのはパン屋とギャラリーを始めてから。それまでには辛く暗い過去もあったという。夫のターセンさんは元々バリバリの営業マンで、帰宅は夜遅く、家のことは何一つしない熱血ビジネスマンだったそう。一方のかおりさんは専業主婦で、若くして結婚・出産を経験し子育てと家事に追われる毎日。二人の生活はどんどんすれ違っていったが、当時かおりさんはターセンさんに対して不満を口にすることができなかったという。というのも、ターセンさんはかおりさんの11歳年上で、出会ったのはかおりさんが高校生の時。当時からさまざまな相談に乗ってもらっていたターセンさんは、かおりさんにとっては大きすぎる存在だったのだ。そんな環境の中、かおりさんは鬱状態に陥り夫に対するイライラが募っていったという。

 一方のターセンさんはそんなかおりさんの気持ちをつゆ知らず、仕事が楽しくて仕方なかったと話す。彼女がイライラしていることに気づきもせず、何か不満が出ると「大丈夫、大丈夫」の一言ですべて片付けていたとも。その後も、サンフランシスコへの転勤、東京での新たな生活と環境が変化し、子どもの教育についても異なる意見で言い争いになることもあったそうだ。そんな中で二人が気づいたことはたくさんあった。

advertisement

・言いたいことを小出しに言う練習
・理解できないことでも「そうかなぁ」と思ってみる
・お互いの成長をほめ合おう
・相手の領域を侵さず、相手を頼ろう
・短所は長所の裏返し

 男女間ではお互いに理解できないことがたくさんあり、毎日一緒に生活していると不満が溜まることも多い。しかし、まずは違う意見を否定するのではなく「そういう考えもあるんだな」と思ってみることで、自分自身の視野が広がる可能性があると話す。また、ささいなことでもほめれば相手との関係を深められるとも。ほめるためには相手をしっかりと観察する必要があるので、「どうせ私のことなんて気にしてないんだ…」と落ち込まなくなるだろう。

 本書は、「夫婦・家族」「仕事」「暮らし」「健康」の4つのテーマで構成されている。暮らし編では、ターセンさんの「人と違って大丈夫」というエッセイが印象深かった。彼は小さい頃から人と違うことをすることに重きを置いていて、いかに目立つかを考えていた少年時代だったという。学生運動に参加し、成人式はパス、外資系企業では有休を全部使いながらも成果を出すという我が道を行くタイプ。現在も世間一般の当たり前ではなく、引田家流を貫いていることも多いという。たとえば年末年始の過ごし方。年越しにはラーメンを食べ、おせちは食べず普通の食事を楽しむそうだ。また、会いたい人にはすぐにでも会いに行くが、普段疎遠な人の場合は冠婚葬祭などでもほとんど欠席するという。その潔さには憧れるが、なかなか簡単に実行できないという人は多いだろう。ターセンさん曰く、まずはしっかりと考えて自分の意見を持つこと、それを恐れず周りに認めてもらえるよう努力することが大切だと。「人と違っても大丈夫」とはなんと心強い言葉だろう。

「理想」や「しあわせ」を前面に出した書籍が多い中、夫婦のダークな側面も洗いざらい紹介した本書は、とても人間味に溢れていると感じた。実際に夫婦間の問題に直面している人にとって心の拠り所となってくれる一冊となるだろう。「未来は過去を変えられる」――辛い過去も、しあわせな未来によって尊い記憶に置き換えられるとはなんと素晴らしいことだろう。

文=トキタリコ