どうして兄は、最愛の妹を殺してしまったのか――ねじ曲がった兄妹愛が引き起こす悲劇の行方

マンガ・アニメ

2019/7/11

『僕が妹を殺すまで』(馬場彩玖/小学館)

 兄弟愛は、血の繋がった者同士が感じるものである。ワイドショーの特集やバラエティで、兄弟姉妹の愛に関するまっすぐで感動的なエピソードが語られるのを目にすることも多い。ただ世の中、表があれば裏もあるように、まっすぐな兄弟愛の裏にはねじ曲がった兄弟愛が存在する。『僕が妹を殺すまで』(馬場彩玖/小学館)は、兄と妹の過ぎた兄妹愛をモチーフにした恋愛サスペンスだ。

 主人公となるのは、琴の副家元の息子として産まれた藤咲真秀。真秀は幼いころに両親を亡くし、また怪我の後遺症により琴が弾けない手になってしまう。名家に産まれた以上、琴を弾くことは逃れられないさだめ。当然琴を弾けなくなった彼に居場所なんてものはなかった。そんな真秀にとって唯一心が許せる存在は、もうひとりの主人公である妹の美琴である。美琴は容姿端麗で、琴も聴く者を惑わすほどの腕前。周囲からは名家の後継者として期待されている。ただ誰も知らないのだ。美琴に隠された、愛する者に対する異常なまでの凶暴性を。

 美琴はある夜、真秀を苦しめる叔父を2階の窓から突き落とし殺してしまう。

 兄のためなら人殺しまでする美琴に真秀は動揺を隠しきれない。さらに叔父を救助しようとした兄に対し美琴は「自分を選ばないなら私もここから飛び降りる」と告げ、飛び降りてしまう。間一髪で妹を救った真秀には、嘘をつき美琴を守る選択肢しか残されていなかった。真秀にとって美琴だけが家族で、妹から笑顔を奪うことはしたくなかったからだ。

 しかし、助けている瞬間に描かれた真秀の回想には、後悔の念があふれていた。

“何故 この時僕は 手を伸ばしてしまったのか。”
“ここで終わっていればと何度、何度…”

 そして回想後には、真秀が美琴を殺す姿が描かれている。

 本作は、「共依存」「奇怪」「サイコパス」という言葉が似合いすぎている。真秀に向けられた美琴の愛は、真秀を苦しめるほどの独占欲そのもの。「僕が守る」と真秀から言わせ、愛を自分だけにつなぎとめようと必死なのだ。真秀も同様である。美琴を悲しませたくない一心で守り、笑顔を増やすことで美琴から愛を感じようとしている。兄妹・家族愛の形に正解はないとはいえ、兄が妹を殺す姿が描かれている以上、ふたりの愛には闇を感じずにはいられない。

 美琴を守ると決めた真秀が、殺害にまで至ってしまったのはなぜなのか。そもそも真秀が本当に美琴を殺すのか、それとも……。今後も暴走必至の兄妹愛を描いたサスペンスマンガ。ぜひ手に取って読んでいただきたい。

文=トヤカン