シナモンロールの甘い香りに癒される、オメガバース&シークレットベビーもの!『オメガの恋は秘密の子を抱きしめる』

マンガ

公開日:2019/7/10

『オメガの恋は秘密の子を抱きしめる -シナモンロールの記憶-(クロスノベルス)』(華藤えれな/笠倉出版社)

 東欧のおとぎ話みたいな街並み、甘いお菓子、天使のようなちびっこと、愛に飢えたイケメン貴族との秘密の恋! ここまでお膳立てしてもらったら、あとは安心してときめくだけだ。『オメガの恋は秘密の子を抱きしめる -シナモンロールの記憶-(クロスノベルス)』(華藤えれな/笠倉出版社)は、そんな女子のときめき要素ぜんぶ盛りの恋物語なのである!

 物語の舞台となるのは、東欧の小国・エストニア──この世界には、男女の性別のほかに、3つの性が存在している。人口の8割を占めるのが、平均的な性のベータ。残りの1割強は、上流階級に多いアルファ、そして1割にも満たない少数の性が、ほかの性よりもアルファの子を孕みやすく、男性しか存在しないオメガだ。

 エストニア人の父と日本人の母、どちらの容貌も受け継ぐ真雪は、ベータとしてこの世界に生を受けたが、幼いころにオメガに変異した“突然変異型”。この突然変異型のオメガはきわめて少なく、そのことが原因で真雪の両親は仲違いし、離婚した。以来真雪は、エストニアの首都・タリンで、祖母と、猫のデコとともに、雑貨屋兼カフェを営みつつ慎ましく暮らしている。

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 だが、運命はどこまでも真雪に厳しかった。病気で足腰の悪い祖母に、高度な手術が必要になってしまったのだ。病院を紹介してもらったはいいが、その医療費は、とても真雪に払えるような額ではなかった。呆然としていたところに、紹介された病院を訪ねた際、知り合った男性が訪ねてくる。金髪碧眼、絵画のように美しい英国貴族・ギルバートだ。

 真雪の作るシナモンロールが気に入ったという彼は、日中ほとんどの時間を真雪のカフェで過ごすようになる。惹かれ合うふたりだが、ギルバートには英国貴族の婚約者が。それでも止められない想いを遂げるため、ふたりはつがいの契りを結び、幸福のうちに体をつなげた。しかしその直後、事故に遭ったギルバートは後遺症で真雪を忘れ、真雪が産んだ一人息子は、ギルバートの生家である伯爵家に取り上げられる。真雪は、伴侶と我が子の幸せを願って身を引くが、数年後、伯爵家から、幼い息子が病に冒されているという知らせが届く。

 息子の命を救えるのは、親であり、輸血ができる真雪だけだ。真雪は、治療に協力する代わりに、使用人として伯爵家で働かせてくれと申し出る。伴侶と我が子の幸せを守るため、自分の素性は明かさない。そう決意して真雪は伯爵家に通いはじめるが、なにも覚えていないはずのギルバートと、なにも知らないはずの息子は、不思議と真雪に心を許し、やがては彼を愛しはじめ……?

 著者の華藤えれな氏は、言わずと知れたオメガバースの名手だ。本作でも、身分の違いに関係なく、ひとりの人間を愛し抜くことの尊さと、その切なさが存分に描かれる。

『オメガの寵妃は甘い閨で孕む(クロスノベルス)』(笠倉出版社)

 また、そんな華藤氏の最新作となるのが、本作と同じくオメガバースファンタジーの『オメガの寵妃は甘い閨で孕む』(笠倉出版社)が7月10日に発売。こちらは、本作のかわいらしい東欧の景色から一変、アルファの剣闘士とオメガの王が織りなす、いわゆる“エジプトもの”だ。最新作でも、愛しい人の子を孕んだ傾国の王の健気な生き様を追うことで、オメガバースの真髄を余すところなく楽しめるだろう。

 心あたたまる愛らしい恋物語か、華やかで淫らな艶物語か、はたまたどちらも堪能するか? 贅沢な選択も含めて、華藤えれな氏の世界に浸ってほしい。

文=三田ゆき

電子版『オメガの恋は秘密の子を抱きしめる』
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