改善しない水虫、急に襲ってくる眠気、その真相は…? 美人薬剤師が事件に立ち向かうお薬ミステリー!

文芸・カルチャー

公開日:2019/7/12

『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(塔山 郁/宝島社)

 小説の中でも推理小説は人気のジャンルだ。探偵が殺人事件を解決していくのが有名な展開だが、『薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理』(塔山 郁/宝島社)では、薬剤師が事件に立ち向かう。薬剤師が関係する事件というと、薬による毒殺を思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、本作では殺人事件は起こらない。事件はもっと身近なところにあふれていたのだ。

 足のかゆみに悩む水尾爽太は、水虫の薬をもらいに薬局を訪れていた。その日に彼を担当したのは、毒島花織という眼鏡をかけた暗い感じの女性薬剤師。水虫の薬を塗っても症状が改善されないことを告げると、彼女は処方箋を疑い始めるのだった。

 この件をきっかけにクールで謎めいた薬剤師・毒島と親しくなった水尾は、彼女とともに薬にまつわる事件に直面していく。ホテル従業員が急激に眠気に襲われる原因は? 正しい分量の薬を出しているのに、薬が足りないから持ってこいと老人女性がクレームの電話を入れた理由とは? 薬に関する豊富な知識と優れた洞察力を武器に、毒島が数々の事件を解決していく。

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 事件を解決していく物語といっても、毒島は探偵ではなく、薬剤師だ。いくら彼女が人並み外れて豊富な薬の知識を持っているとはいえ、それだけでは事件を解決できないだろう。ポイントなのは洞察力だ。彼女の洞察力が優れているのは、薬剤師と医師・患者との関係が影響している。

 患者が持ち込む処方箋には薬の名前と分量が書かれているが、病名は書かれていない。そのため、院外処方の場合、薬剤師は患者の病名を知ることはできないのだ。薬剤師は処方箋の不備を見つけたとき、医師に問い合わせしてからでないと調剤してはいけないことになっている。しかしながら、それはあくまでも不備があった場合のみで、多くの患者が待っている病院に対して毎回患者の病名を聞くことはできない。かといって、医師に説明した病状を再び薬剤師に説明するのを嫌がる患者も多く、患者から病名を聞くことが難しい場合もある。そのため、薬剤師は経験を積んでいくうちに処方箋から病名やその薬を出した医師の意図が推測できるようになっていくという。てっきり薬剤師は病名を知っているものと思っていたので驚きだった。毒島の洞察力はこうして磨かれたものだったのだ。

 もちろん、毒島の薬の知識も本作の魅力のひとつ。彼女は薬だけでなくハーブにも詳しい。本作の初めに登場する2人の女性は、結婚・妊娠により退職する同僚へのプレゼント選びに悩んでいた。彼女たちはカフェインが含まれていないハーブティーを購入しようとするが、そこに居合わせた毒島が止めに入る。実はハーブの中には子宮を収縮させる作用を持つものがあるため、妊婦はそれらのハーブを使ったハーブティーを控えなければならない。「ハーブティーはカフェインがないから妊婦でも安心」という思い込みは危険なのだ。

 このほかにも、本作には薬や病気に対する思い込みが原因で起こる事件が多数登場する。「この食品は体に良い」「この薬は副作用が強い」などの勝手なイメージによる行動が、かえって症状を悪化させている場合さえあるのだ。毒島は、医師や薬剤師の指示をきちんと守ること、用法用量を守って使うことの大切さを説いていく。

 謎めいた美人薬剤師・毒島が薬に関する事件に立ち向かっていく本作。洞察力が求められる薬剤師という職業と、間違った情報が広がりやすい薬に関する事件という組み合わせがぴったりで、新感覚のミステリー小説だった。さらに、薬に関する思い込みがいかに多いか、そして医師や薬剤師の説明をきちんと聞くことがどれだけ大切かを教えてくれた。薬剤師や薬との付き合い方も教えてくれる1冊だ。

文=かなづち