人から悩み事を相談されたときの悩みを解決!! 「配慮」はしても「遠慮」はほどほどに

暮らし

2019/7/16

『精神科医の話の聴き方 10のセオリー』(小山文彦/創元社)

 鬱病の人に「頑張れ」は禁句という認識が広まってきたけれど、同時に「関わると面倒」という意識も広まってしまったように思える。また実際に、家族や友人などから「つらい」「憂うつだ」「死にたい」などと相談され、その言葉をどう受け止めれば良いのか悩んだ人もいることだろう。では、専門家である精神科医はどのように対応しているのか。この『精神科医の話の聴き方 10のセオリー』(小山文彦/創元社)は、事業所において健康管理等の指導や助言をおこなう産業医の経験もある精神科医の著者が、基本原則と具体的な対応を様々な場面ごとに紹介しており、悩み事を相談された際の悩みを抱える人には必読の一冊だ。

 何かしら人から相談された経験があるのなら、「悩むこころを受け止める10のセオリー」が参考になる。10項目それぞれの解説とともに、気をつけるべき点がチェックボックスとして挙げられているので、相談されたときのことを思い出しながら自身を振り返ってみる実践的なテキストとして役立つ。また、対話する際のリズムやテンポといったバランスの取り方や、対話する場所と位置関係、共感を示す相づちの仕方など技術的なことはもちろん、心構えや考え方についても難しい専門用語は使わずに解説していて分かりやすい。それは著者が、「人の心に触れて何らかのお手伝いをしよう」とする自身について、「専門家」と名乗ったことはないという想い故なのかもしれない。

 本書を通して特に印象に残ったのは、「理解と示唆を急がない」というフレーズだ。他の心理学の本でも、相談を受けたからといって性急に解決策を提案するより、まずは傾聴して共感の姿勢を示すよう勧めていることが多い。そのためには相づちが有効だと書いてあるのを目にしてきたが、本書ではその相づちもまた急がず「話し相手を追い越さない」のがポイントだとしている。相手がゆっくり話しているのなら緩徐に、口調が速まってきたら追いつけるように、しかし追い越すことなく並走までにとどめ、語調も相手を超えて強くなりすぎないように調和を取るのだ。つい、話を聴いていることを態度で示さなければとも思いがちだが、「沈黙や間(ま)を挟みながら、結論を急がせない」のもまたテクニックの一つ。

 相手を否定したり無関心であるかのようにふるまったりするのは好ましくないのは当然としても、「共感は相手に同調することとは異なる」そうで、「私は私であってそれでよい、あなたはあなたであってそれでよいのだ」と現状を認め合うのが必要だという。でないと今度は、相談を受けた自分が相手に意見を受け入れてもらえないことに不満を持ち、問題を解決するのが難しくなってしまう。だから著者は、客観的自我を保って「言ってはいけないこと」に配慮をしつつ、「言えたほうがいいこと」を遠慮して制限をかけないようコントロールする方法を、幾重にもグラデーションのように重ねて解説している。

 それでも中には、「聴いているだけでいいのだろうか?」と不安を感じる人もいるだろう。「有効なアドバイス」を与えたいという、使命感にも似た気持ちに駆られるのは否定されるものではない。しかし実のところ、「何が」語られたかよりも「いかに」語られたかが相手の心に残るため、どう聴いてもらえたかということが重要。いささか残念な気持ちになるかもしれないが、臨床心理学者の河合隼雄氏のこんなたとえ話が紹介されている。真っ暗になった夜の海で漁師たちが必死になって灯を掲げて方角を探るも見当がつかずにいたとき、一人の知恵のある者が灯を消すように言い、灯を消してみると次第に目が暗闇に慣れてきて、遠くのほうに浜辺の町の灯が見えてきたと。相手のためを思って灯した「目先の灯」が、かえって惑わせてしまうという訳だ。暗闇の中に希望を見出すのは、相談者自身であることを忘れてはならない。それは、自分が人に相談するときにも同様である。

文=清水銀嶺