日本人には違和感の“カリフォルニアロール”は、「ポスト・ファーストフード社会」の象徴だった! 知られざるアメリカ食歴史

社会

2019/7/16

『食の実験場アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』(鈴木透/中央公論新社)

 スポーツや性、暴力を切り口にアメリカ社会の深層に切り込んできた鈴木透氏が、新たにまな板にのせたのはアメリカの“食”だ。「本来、食べ物には、過去の記憶が詰まっている」との視点から、『食の実験場アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』(中央公論新社)は、植民地時代以来のアメリカの食の変遷を辿り、知られざるアメリカ社会の本質を浮かび上がらせる。

 たとえばポップコーンは先住インディアンの調理法が由来であり、フライドチキンは黒人奴隷の故郷・西アフリカに起源を持つと聞けば、身近な食べ物さえ違った顔を持ち始めるだろう。さらにジャンバラヤやガンボーなどの地方伝統料理も、非西洋と西洋の文化の融合であるといった例を挙げ、「アメリカの食文化の原点は、異なる要素を創作的に自由に組み合わせてどこにもない混血料理を創りだすこと」と説く。何かと人種問題が表面化するこの国だが、こと食に関しては昔から互いを認め合い、「混血料理」を生み出してきたという歴史は実に興味深い。そして建国以来、政治の実権を握るイギリス系白人ではなく、実は多くの移民や奴隷たちが主役となり、国民食を築き上げてきたとの説は痛快である。

 一方で、産業社会の進展とともに台頭したファーストフードが、肥満や貧困層の健康格差、農業の歪みを生んでいることも丹念に描いている。その流れに対抗するよう現れたのが「ポスト・ファーストフード社会」であり、健康志向の牽引役の一つとなったのが創作寿司「カリフォルニアロール」であると明かす。日本人から見れば違和感のあるカラフルな寿司も、米国の食文化が健康と多様性を取り戻すべく挑んだ実験の一過程と見れば、どこか応援したくなる。加えて「CSA(地域支援型農業)」と呼ばれる農業の新たなモデルにも触れるなど、多彩な素材を取り上げつつ、アメリカ社会と食の関係を結び付けてみせるのが本書の真骨頂だ。

 これからアメリカの食は、そして社会自体はどこに向かっていくのか。240年以上築いてきた食の歴史同様、異文化との融和に立ち返ることが可能なら、民族分裂や格差社会、紛争といった大国が孕む問題の解決策も見出せるだろう。そして私達にとっても、食べ物に刻まれた過去の記憶と向き合うことは意義深く、この書を読んだ後は、料理や食べ物を見る目も変わってくるに違いない。農業の衰退。食品ロス。孤食。郷土の味。料理をしていた母の手…。「ボーッと喰ってんじゃねーよ」と自分を戒めつつ、いつもの食卓から様々なことに思いを馳せる。

文=羽渕敏伸