ビジネス書ベストセラー作家が描く、自由奔放なママと娘の心温まるエンタメ家族小説!

文芸・カルチャー

2019/7/18

『タカラモノ』(和田裕美/双葉社)

 あなたもきっと誰かのかけがえのない「タカラモノ」なのだろう。どうしても前を向けない時、自分に自信が持てない時、ぜひ読んでほしい本がある。その本は、和田裕美氏の『タカラモノ』(双葉社)。自由奔放で憎めないママと娘のやりとりが胸に迫るエンタメ小説だ。

 和田氏といえば、外資系教育会社での経験から『世界No.2営業ウーマンの「売れる営業」に変わる本』で作家デビュー、著書が累計220万部を超えるビジネス書作家として知られ、最近ではNHK Eテレ「芸人先生」にレギュラー出演するなど、メディアでも活躍している。そんな華やかな経歴とは裏腹に、幼い頃は引っ込み思案で、一筋縄ではいかない家庭環境だったそうだ。

『タカラモノ』は、自身の生い立ちと家族をモデルに描いた初の小説。2016年に発売された『ママの人生』を改題、大幅な改稿を加えて文庫化された。和田氏の母親がモチーフである「ママ」と、和田氏自身がモデルの「ほのみ」を中心に繰り広げられる物語は、読めば読むほど、驚きと暖かさに溢れている。和田氏に多大な影響を与えた「ママ」は、自分の子どもの良さをどのように伸ばしてきたのか、きっとこれを読めば納得することだろう。ほのみに送るアドバイスのひとつひとつに、ママの人生の哲学と愛情がこもっているのだ。

 主人公・ほのみは、4人家族。しっかり者のお姉ちゃんと、どうしようもないパパと、そして、大好きなママと、4人で暮らしている。だが、4人での暮らしは決して恵まれたものとは言えない。特に、夜の仕事をしているママは、ときに子どもを置いて駆け落ちしてしまうとんでもない母親だ。だけれども、自由奔放な彼女には、誰もが魅了されてしまう。ほのみも、母親のことはどうしても憎むことができない。それは、ママが子どもたちのことを愛していることは間違いないと思えるからだ。会えない時に交わされる「伝言ノート」での会話。ことあるごとに伝えられる「あなたは私のタカラモノ」という言葉。いつだって、ママはほのみに必要なアドバイスを与えてくれる。だが、その言葉が普通の母親では思いつかないようなものばかりなのだ。

 たとえば、ママが夜、家にいないことを、友人の母親に「かわいそうだ」と言われ、ほのみがママに「こんな家やったら、誰でもグレて不良になるわ」と泣きつくと、彼女はこんなことを言う。

「どうぞ、グレてください」
「あんたが不良になっても、あんたがそうしたいんやったらママはそれでもええねん。ママはあんたが不良になっても痛くもかゆくもないねん。そやけどな、誰が損すんの? あんたがいややったら、そうならへんかったらええんちゃうの?」
「幸せになりたいんやったら、誰かのせいにしたらあかん。誰かに頼んでもあかんねん」

 子ども相手でも真正面からぶつかり、人生の厳しさも楽しさも伝えていくママ。そんな型破りなママから、ほのみは人生で本当に大切なことを教わっていく。そして、一人の立派な女性として、確かに成長していくのだ。

 決して恵まれた環境ではない家庭環境を描いた作品なのに、この物語は、底抜けに明るい。そこに込められた思いについて和田氏はこう語る。

「人が元気になる要素は、“落ちて上がるとき”なんです。大切な人を失ったり、一文無しになったり、それは決してマイナスのことではなくて、その先に光があるんだよ、ということを伝えたい。今、暗いトンネルにいる人に、“いつか出口はあるんだよ”ということを伝えたい。それは、ビジネス書でもずっと訴えてきたことです。」

 一冊の中に大切な言葉がたくさん詰まったこの本は、暗いトンネルの中にいる人にこそ薦めたい作品。読めば、きっとあなたを大事にしてくれた人を思い出す。前を向く勇気が出せない時、ぜひ手にとってほしい一冊だ。

文=アサトーミナミ