弥生時代のおにぎりをCTスキャンで解析!? 考古学でおにぎりをガチ研究!

暮らし

公開日:2019/7/23

『おにぎりの文化史 おにぎりはじめて物語』(河出書房新社)

 2014年秋、横浜市歴史博物館でしずる感あふれる企画展が行われた。その名も「大おにぎり展」。

「おにぎりっていつからあるの?」「日本全国にはどんなご当地おにぎりがあるの?」…などなど、学芸員の皆さんがおにぎりの歴史や文化をアカデミックに掘り下げていく展示はテレビやSNSで話題となり連日大盛況に。横浜市歴史博物館のいつもの来場者は7割がシニア層の渋めの男性だが、この会期中は女性の来場者が半分以上を占め、40歳以下の年齢層も多く訪れたという。そんな伝説の企画展を書籍化したのが『おにぎりの文化史 おにぎりはじめて物語』(河出書房新社)である。

 特に注目すべきは考古学パート。弥生時代から戦国時代まで全国各地で出土した「おにぎり」を解析し、日本人がおにぎりをいつの時代からどのように食べていたかを検証している。

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 このおにぎり。どんな見た目かと言うと、炭化して真っ黒の状態で発掘される。しかし、その黒焦げの塊はもしかしたらただの食べ残しのご飯かもしれないし、備蓄されていたお米かもしれないし…と必ずしもおにぎりとは限らない。その「おにぎりか? おにぎりじゃないか?」の判別方法がおもしろい。

 たとえばこんなところをチェック。

1.籾殻がついていないか?

籾殻がついていれば炊いていないのでおにぎりではなく精米前の米塊

2.米が潰れているか?

米粒が潰れていたら柔らかく炊かれた証拠(粥状に調理されたものかもしれない)

3.布や籠の跡がある

包みや弁当箱に入っていた可能性が高い

 このようなポイントから「おにぎりor NOTおにぎり」をジャッジしていく。

 そしてダメ押しの秘密兵器がCTスキャン! おにぎりをCTで輪切りにして解析した時、「表面が密な状態=おにぎり」として握られた可能性が高いのだ!!

 また本書には弥生時代のおにぎり作りを再現した特集ページも。

「弥生時代のおにぎり」とさらっと言うが、炊飯器はおろかコンロも鍋もなかった時代。おにぎりを握るにはまず米を炊く器が必要。そこで学芸員の皆さんは何をしたかと言うと、複製弥生土器を用意。そして、出土された土器に吹きこぼれの跡があることをヒントに米を炊いた。土器で起こす吹きこぼれ。ヤケドの恐怖を乗り越え、おにぎりを握るのに程よい硬さに炊き上げられたお米。「おにぎりを作るのって実はこんなに大変だったんだ!」と感動させられる。学芸員の皆さんは、ちょっと笑ってしまうくらいマジメにおにぎりを研究しているのだ。

 ちなみに、現在最古とされているのは、弥生時代中期末の石川県杉谷チャノバタケ遺跡から出土した炭化おにぎり。およそ2000年前のおにぎりが現代に残っているとは、なんて夢があるのだろう。今日あなたのお母さんが握ったおにぎりも、2000年先の未来に発掘されるかもしれない。

 そんなおにぎりはいつから海苔が巻かれ、具が入るようになったのか? 海苔は、現代のような板海苔が登場したのが江戸時代。しかし当時は高級品でおにぎりの名脇役になったのは第一次大戦後に海苔の生産量が激増してからと言われている。

 では、具はどうか。これが実ははっきりはしていない。なぜなら、文献でも絵図でもおにぎりにまつわる記録がほとんど残されていないのだ。特に絵になると、一見おにぎりのように見えてももしかしたら饅頭かもしれないし、もしかしたら餅かもしれないし…と断定できないものが多い。特に浮世絵では、寿司が多く描かれているのと対照的にほとんど残されていない。「ありふれた食べ物であるからこそ、いちいち記録されていなかったのではないか?」と館長の鈴木さんは考察する。

 身近すぎる存在、おにぎり。でも実は意外とミステリアス? だったのかもしれない。

文=線