「私、余命ゼロなんだ」ベストセラー『君月』のコミカライズがついに完結! その裏側にある、もうひとつの友情物語

マンガ

更新日:2019/7/23

『君は月夜に光り輝く』(マツセダイチ:著、佐野徹夜:原著、loundraw:イラスト、デザイン)

 月の光を浴びると身体が光り輝く「発光病」に侵された少女まみず。余命ゼロという彼女に代わって“死ぬまでにしたいこと”を実行していく卓也。姉の死によって生きることに実感を持てずにいた卓也は、まみずに惹きつけられる。この感情は恋なのか、それとも――。

 社会現象とも呼べる大反響を巻き起こした佐野徹夜さんのデビュー作『君は月夜に光り輝く』。永野芽郁さん、北村匠海さん主演で実写映画化されたのも記憶に新しく、本誌でもマンガ版が好評連載された。

 コミカライズを手がけたのは、『Re:ゼロから始める異世界生活』シリーズで知られるマツセダイチさんだ。この名を聞いて、佐野徹夜ファンならぴん、とくるかもしれない。というのも〈大学時代にプロデビューした友だちのマツセくん〉として、佐野さんのインタビューなどにマツセさんはたびたび登場するのだ。

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 学生時代からの友人同士であり、一方は小説家、一方はマンガ家を目指して切磋琢磨し合い、いつの日か共作したいという夢をふたりは『君月』でみごと実現させた。そして、このたび完結巻となる下巻が発売された。

 卓也とまみずの出会いから、まみずの願いを代行していく卓也の奮闘、星空の下での告白と、上巻の空気はまだ軽やかさと楽しさ、青春の瑞々しさに充ちていた。いずれやってくるであろう“別れ”はまだ先で、まみずへの想いもようやく自覚したばかり。死の気配は漂ってはいるものの、さほど強調されていなかった。

 それが下巻では、ぶわっと出てくる。いや、まみずのリミットが近づくにつれどうしても出ざるを得なくなってくる。

月光を浴びて光り輝くまみずを見て、卓也は何を思うのか

死にとり憑かれている卓也の心を、まみずは見抜く

 まみずと卓也が出会う接点を作った第三の登場人物、香山が本格的に参入してきて、まみずを挟む三角関係ものとしても、男子同士の友情ものとしても、物語は広がりをみせてゆく。

「発光病」に倒れた作家・静澤聰の墓参り、文化祭での『ロミオとジュリエット』公演を経て、作中での時間は夏から秋へと移り変わる。そんな季節と呼応するかのように、彼らの間の雰囲気も変わっていく。まみずの容態が悪化するのにしたがって、互いの想いも深まり、ゆらぎ、ときに反撥する。各人物の心の動きが丁寧に、繊細に描かれる。

男同士の『ロミオとジュリエット』舞台上に

限られた時間のなかで、ふたりの想いは純化する

 原作の文章や台詞、モノローグをできる限り変えることなく、それでいて間の取り方や目線の流れ、そこから醸される細やかな感情はマンガという表現ならではだ。過剰な演出は控えて、ビジュアル的にも奇をてらわない。だからこそ、いっそうクライマックスの屋上の場面が強烈に迫ってくる。

 愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。

 以前は分からなかった詩の一節を、この詩に興味を抱いていた姉の気持ちをとうとう分かった卓也は、自分の愛する者のために、まみずのために、ある行動を起こそうとする。対してやはり愛する者のために、卓也のために、まみずは最後の願いを託す。

 原作でもっとも烈しく感情がぶつかり合うこのシーンが、はたしてどのように表現されているのか。それはぜひ、あなたの目で確かめてみてほしい。佐野徹夜マツセダイチ、ふたりの卓越した作家の個性が結実した作品となっている。

文=皆川ちか