摂食障害、抜毛症、自殺……「あなたのため」が子どもを追い詰める教育虐待の実態

社会

公開日:2019/7/29

『ルポ教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(おおたとしまさ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 連日絶えない児童虐待のニュース。その多くが幼い我が子を身体的、精神的に追いつめ、最後には命をも奪ってしまうという凄惨な事件ばかりだ。しかしニュースで取り上げられている虐待事件は氷山の一角に過ぎず、今日もどこかで子どもたちが虐待を受けているかもしれない。

 虐待のカタチはひとつではなく、体罰や言葉の暴力、性的虐待、育児放棄(ネグレクト)など、さまざまな種類がある。たとえば、近年メディアに取り上げられるようになった「教育虐待」は、教育熱心な親が子どもを肉体的・精神的に苦しめるというもので、なかなか表面化しにくいのが特徴だ。

 7月12日に発売された『ルポ教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(おおたとしまさ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、教育虐待を受けて育った人々に話を聞き、その闇に迫る一冊。著者は冒頭で教育虐待についてこう綴っている。

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「教育虐待」とは、「あなたのため」という大義名分のもとに親が子に行う「しつけ」や「教育」のことである。2012年8月23日付の毎日新聞の記事によれば、「子供の受忍限度を超えて勉強させるのは『教育虐待』」とのこと

 いわゆるスパルタ教育をイメージする人が多いかもしれないが、同書に登場する被害者たちの脳裏に焼きつく親の姿は、明らかに度を超えている。

 なかでも印象的だったのは、子どもが思い通りにならないとヒステリーを起こす母に育てられた女性、凛さんケースだ。凛さんの従兄弟の口から語られる母・たえ子さんは「自分が常に正しく、他人や社会が間違っている」という考えを持つ人で、親戚間でもトラブルが絶えなかったという。子どもの行動すべてに干渉し、勉強を強要するだけでなく「おしおき」と称してろうそくを垂らしてやけどを負わせたこともあったそう。そんなたえ子さんの口癖は「それがあなたのためなのよ」だった。母からの干渉と罵声、体罰に耐えていた高校時代、凛さんの唯一の心の支えだった祖母に「もう大人なんだから、自分が正しいと思うことを言ってもいいのよ。親が正しいとは限らないの」といわれたという。

 大学を卒業した凛さんは、就職を機に家を出るも、職場の人間関係がうまくいかずうつ病を発症し、親元に戻ることに。当然、実家に戻っても心やすまることはなく、母親はうつ病患者にもっともしてはいけない「叱咤激励」を繰り返したという。さらに追い打ちをかけたのが、心のよりどころだった祖母の死。最愛の祖母を亡くした半年後、彼女は27歳の若さで自ら命を絶ってしまう……最悪の結末を迎えてしまったのだ。我が子を失ったあとでは、たえ子さんの「あなたのため」という言葉も虚しく響く。

 彼女の口癖が象徴するように、教育虐待に共通するのは「あなたのため」という大義名分を掲げている点だろう。この言葉によって、自分自身と子どもに「虐待ではない。しつけ、教育だ」という暗示をかけてしまっているのかもしれない。

 同書にはそのほかにも、家庭教師の罵倒によって摂食障害になってしまった女性や、中学受験を強いたために息子が「抜毛症」を発症してしまった父親など、さまざまな教育虐待が登場する。そして最終章では“大人たちが子どもにできることはなにか”というテーマを考察し、ひとつの答えを提示してくれる。

「子どものため」と口に出すのは簡単だ。しかし、その言葉は“呪い”となり我が子を苦しめることにもなりかねない。親子の形が歪んでしまう前に、子どものSOSに耳を傾けてほしい。

文=とみたまゆり