ミリタリーファン必読! 松岡圭祐が生んだ“史上最恐のダークヒロイン”が、日本社会の闇に立ち向かう!

文芸・カルチャー

公開日:2019/7/27

『高校事変 II』(松岡圭祐/KADOKAWA)

「千里眼」「万能鑑定士Q」「探偵の探偵」「特等添乗員α」「水鏡推理」…。どうして、松岡圭祐が描くヒロインたちは皆、こんなにも魅力的なのだろう。容姿端麗、頭脳明晰。瞬く間に解決されていく数々の事件。読者たちはページを読む手を止めることができず、気づけば、松岡が生み出す世界にのめり込んでしまう。

 そんな松岡の新シリーズ「高校事変」を、もうあなたは手にとっただろうか。この作品に登場する、女子高生・優莉結衣がもたらす衝撃は、あまりにも大きい。「史上最恐のダークヒロイン」とでも形容すれば良いだろうか。松岡圭祐といえば、「人の死なないミステリー」をイメージする者も多いだろうが、この作品は正真正銘のバイオレンス小説。ミリタリーファンの間で大好評のシリーズなのだ。

 このシリーズのヒロイン・優莉結衣は、平成最大のテロ事件を起こし死刑になった男の次女。事件当時、彼女は9歳で犯罪集団と関わりがあった証拠はないが、17歳になった今でも、常に警察や公安から目をつけられている。第1巻では、結衣の通う武蔵小杉高校に、総理大臣が訪問しにくることになる。総理は、高校に結衣がいることなど知らない。ただ、「平凡な公立高校」を視察し、政府としては多少でも支持率を上げたいと目論んでいるだけだ。だが、当日、総理がSPとともに校舎を訪れる最中、突如高校に武装勢力が侵入。別の教室で自習を申し渡されていた結衣だが、逃げ惑う総理たちに気づき、目的不明のテロリストに立ち向かうことになる。

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こちらに目が向くより早く、結衣は羽交い締めにした兵のホルスターから、左手で拳銃を抜いた。グリップの握りぐあいでグロック17だとわかる。安全装置のレバーはない、トリガーセーフティだった。

 結衣は、幼い頃、父親から戦闘に必要な知識を徹底的に叩き込まれた。校内にあるのは、日用品ばかり。それにもかかわらず、彼女は目の前にあるものを何でも兵器にしてしまう。こんなにも危機的な状況だというのに、結衣は常に冷静沈着。適切な判断能力と類稀なる身体能力、咄嗟の機転で鮮やかに敵を倒していくのだ。「倫理的に大丈夫だろうか…」と心配にさせられつつも、アクションシーンは圧巻。ヒロインがバッタバッタと容赦なく敵を撃退していくさまに、あなたもきっと爽快さすら感じてしまうに違いない。

 第2巻『高校事変 II』(KADOKAWA)では、「武蔵小杉高校事変」から2カ月後を描く。ある時、結衣と同じ養護施設に暮らす奈々未が行方不明になってしまった。さらに、多数の女子高生が失踪していたことが判明。結衣は奈々未の妹・理恵に懇願され調査に乗り出すことになり、また、持ち前の戦闘能力で、事件の真相へと迫っていく。

 結衣は、悲しいほどに、強い。こんなにも強くなってしまった生い立ちを思えば思うほど、胸が締め付けられる。たとえば、第2巻で結衣は、理恵にこんな言葉を吐く。

「わたしを受け入れること自体が、異常だって気づいてよ」

 もしかしたら、松岡の描いたヒロインたちの中で、優莉結衣はもっとも孤独な存在なのかもしれない。周りから浴びせかけられる「テロリストの娘」という視線。女子高生らしいことに興味が持てず、戦闘力を磨くことばかりに情熱を注ぐ自らに気づきながら、彼女は自身を嘲笑し続けている。出自ゆえに背負っているもの。それが彼女の強さであり、彼女の悲哀を生み出している。

 学力問題、慰安婦問題、JKビジネス、特権階級の存在…。ありとあらゆる日本社会の「闇」をテーマとしているのもこのシリーズの大きな特徴。日本社会の闇に優莉結衣はどう立ち向かっていくのだろうか。松岡の過去の作品の女性ヒロインとは一線を画するダークヒロインに、あなたも魅了されることは間違いない。

文=アサトーミナミ