拾ってきたタヌキが「自分は神様」と名乗りだす!?  疲れている人に贈る、4つの癒し物語

文芸・カルチャー

公開日:2019/8/1

『おはようの神様』(鈴森丹子/KADOKAWA)

 恋の悩みは誰かに相談するのが一番。悶々と思い悩むよりも、他の人に話を聞いてもらった方が恋の成就に一歩近づくことでしょう。もしかしたら、アドバイスなどは必要ないのかもしれません。誰かがそばにいてくれる。その温かさだけで、自然と勇気が湧いてくるものです。

『おはようの神様』(鈴森丹子/KADOKAWA)は、ただ“そばにいてくれる”、不思議な神様との日常を描いたほんわか作品。『おかえりの神様』『ただいまの神様』『さよならの神様』と続く大人気シリーズの最新刊ではありますが、この巻から読み始めてもOK。どの順番から読んでも楽しむことができるシリーズです。全巻重版されているというのも納得。読めば読むほど、あなたも不思議な神様のあたたかさに惹きつけられてしまうことでしょう。特に最新刊『おはようの神様』は、恋に悩んでいる人にこそオススメ。恋にまつわる物語が収録された胸キュンの一冊は、なんだか読むだけで恋の一歩を踏み出すことができるような優しい作品です。

 主人公は、テーマパークでアルバイトをしている神木尋心。彼女は、アルバイトから社員になることを目指して懸命に働き、周囲からもそのがんばりが認められています。ですが、社員登用のチャンスが訪れたある日、テーマパークに現れた元彼の姿に動揺した彼女は大失敗をおかしてしまいます。上司の期待も裏切ってしまい、独りやけ酒に沈み、相談できる人もいない…。

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「神様でもお化けでも何でもいいので助けてください」

 そんな時に彼女の目の前に現れたのは、愛くるしい1匹の狸。連れて帰ると、人の言葉を話した上に、なんと「自分は神様だ」と名乗り出したではありませんか。

「おかえり。風呂に入られよ。酒臭いでござる」

 傷心の神木の話をなんだかんだちゃんと聞いてくれる神様と、神木に訪れる新しい恋のチャンス。神木の恋は一体どう展開していくのでしょうか。

 神木が「ポコ侍」とあだ名をつけたこの神様は、本当に謎多き存在です。見た目はただの狸。モフモフした見た目とお侍さんみたいなヘンテコな言葉遣い。神木の分の朝ご飯を勝手に平らげてしまう食いしん坊で、何にでもマヨネーズをかけてしまう病的なマヨラー。神木以外の人の前では、口調そのまま、イケメンの姿に化けてみせます。そんな個性的な神様は、神通力があるわけでもなければ、願いを簡単に叶えてくれるわけでもありません。だけれども、彼がただ“そばにいてくれる”それだけで、心が満たされてしまう気がするのはなぜでしょうか。そのほっと優しい存在に癒しすら感じてしまうのです。

 ただ寄り添ってくれるだけ。ただご飯をねだられながら、そばにいてくれるだけ。その姿はどう見てもペットです。でも、その実態は神様。ふとした一言が登場人物たちの心を動かすこともあります。気づけば彼らの恋は、神様のおかげで少しずつ前進していくのです。

 こんな神様がそばにいてくれたらどんなに良いことでしょう。いや、もしかしたら、見えないだけで、こんなに可愛い神様が、あなたのそばにもいるのかもしれません。そう思うだけでなんだか心強い気がしてきませんか。そばにいる温かい神様の物語をぜひあなたも手に取ってみてほしい。恋の一歩を踏み出せる物語に、あなたも勇気が湧いてくることでしょう。

文=アサトーミナミ

・『おはようの神様』作品ページ
・メディアワークス文庫公式サイト