世界の調和が狂う時、少年と少女は何を選ぶのか?――『天気の子』INTRODUCTION

マンガ

更新日:2019/8/8

 国内観客動員数1900万人を突破し国内興行収入は250億円台に到達、邦画興行収入歴代ランキング2位に輝いた長編アニメーション映画『君の名は。』(2016年)。新海誠監督、待望の新作『天気の子』がついに公開された。

天気の子場面写真

 3年ぶりとなる最新作『天気の子』は、脚本も手がける新海誠監督がこれまで書き継いできたボーイ・ミーツ・ガールの王道を突き進む。つまり、現実以上に美しい風景の中で、少年が(不思議な能力を持った)女の子と出会う物語。

 雨が降り続く、異常気象のさなかにある日本。高校1年生の夏、離島に暮らす帆高は家出をして東京へ、新宿歌舞伎町へとやって来る。お金が尽きかけた頃、小さな編集プロダクションの社長・須賀に拾われ住み込み生活をスタート。事務所の先輩で大学生の夏美とともに、「100%の晴れ女」という都市伝説の取材を始める。すると、ひょんなことからマクドナルドで出会った少女・陽菜と再会。「ねえ、今から晴れるよ」。祈ることで天気を晴れにする、彼女の能力を目の当たりにする。

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 帆高は、弟の凪と二人きりで暮らす陽菜の生活を助けるため、「晴れ女ビジネス」を考案する。ウェブサイトでオファーを受け、希望の日時に指定された場所へ出向いて祈ることで晴れにする――「それはまるで街が華やかな服に着替えていくかのようだった」(帆高のモノローグより)。その言葉通り、移り変わる天気のグラデーションの美しさたるや。「天気」は人々の「気分」と結びついている。陽菜の祈りは天気の良さや、東京という街の美しさを回復させるだけでなく、連日の降雨で鬱屈した人々の心のもやも晴らすのだ。

 しかし、いくつもの幸福な思い出を重ねていった先で、彼らの日常は変質を遂げる。「世界を救うこと」と「少女を救うこと」。王道のエンターテインメントであれば直結しているはずの両者が、新たな選択肢となって浮上する。作画、背景美術、VFX、CG、音響設計、撮影、『君の名は。』に続きタッグを組んだ、野田洋次郎率いるバンドRADWIMPSが書き下ろした主題歌・劇伴とのコラボレーション……。アニメーションという表現ジャンルが持ちうる、全ての要素を過去作からアップグレードさせながら、新海監督は少年と少女の最後の「選択」を、観客の胸に深々と突きつける。

 快感とは言い切れない。絶望という言葉も違和感が残る。映画を見た日の気分によって、きっと感想も違ってくるだろう。誰かと一緒に観たなら、必ず話し合いたくなるはずだ。そういう映画を作るということが、新海誠監督の「選択」だったのだ。

文=吉田大助

【登場人物】

森嶋帆高

森嶋帆高(もりしま ほだか)
離島から家出して、東京にやってきた高校1年生。バイトは見つからずマンガ喫茶をはしごするお金もなくなった頃、東京行きのフェリーで出会った中年男性・須賀の名刺を思い出し、彼の元へ。須賀が営む小さな編集プロダクションに住み込みで働くようになる。

天野陽菜

天野陽菜(あまの ひな)
帆高が出会った女の子。アルバイトをしながら小学生の弟・凪と、古いアパートで二人だけで暮らしている。祈ることで、空を晴れにできる能力の持ち主。自分の方が年上だからと「陽菜さん」と呼ぶよう、帆高に強要。

天野 凪

天野 凪(あまの なぎ)
陽菜の弟。整った顔立ちで、小学生ながら大人びた言動で女子たちに人気。女心にうとい帆高から、「センパイ」と呼ばれている。帆高と陽菜が始めた晴れ女ビジネスで、嫌がりながらもてるてる坊主の着ぐるみを着て手伝うなど、実は無邪気な一面も。

須賀圭介

須賀圭介(すが けいすけ)
小さな編集プロダクションを経営するライター。雑居ビルの半地下に事務所を構え、主にオカルト記事を企画・執筆。今は娘と離れて暮らしているが、一緒に暮らすことを望んでいる。

夏美

夏美(なつみ)
須賀の編集プロダクションでアルバイトをしている大学生。愛車のピンク色のカブを乗り回し、持ち前の好奇心と探求心で取材に奔走する。就職活動中だが、いまいち乗り切れていない。子供と大人の間の、モラトリアムにいる自分にかすかに苛立つ。

天気の子場面写真

(8/6発売『ダ・ヴィンチ』9月号より転載)