戦争で男爵が砲弾の代わりに落としたものは…子どもと一緒に平和について考えられる絵本『そらいろ男爵』

文芸・カルチャー

2019/8/5

『そらいろ男爵』(ジル・ボム:文、ティエリー・デデュー:絵、中島さおり:訳/主婦の友社)

 2頭身で、ちょっととぼけた風貌のそらいろ男爵。この男爵、あるユニークな方法で戦争をやめさせちゃうのです。

『そらいろ男爵』(ジル・ボム:文、ティエリー・デデュー:絵、中島さおり:訳/主婦の友社)は、フランスの小学校で教えながら物語を書く絵本作家、ジル・ボムによる児童書です。第一次世界大戦開始100年目にあたる2014年にフランスで刊行され、すぐれた児童書に贈られるサンテグジュペリ賞を受賞しました。絶妙な配色とかわいらしい絵による、美しい1冊です。

■武器の代わりに使ったのは…本だった

 自分でつくった飛行機をそらいろにぬり、誰にも邪魔されずに空の散歩を楽しむそらいろ男爵。けれども、ある日、戦争に行かねばならなくなりました。飛行機に乗った男爵が、砲弾の代わりに敵の陣地に落としたのは…「本」でした。そらいろ男爵は、大の読書好きだったのです。

 ある時には、ぶあつい百科事典をばらまき、敵の部隊の行く手を阻みます。そしてある時には小説を落とし、敵の隊長を夢中にさせました。隊長が夜通し読んでくれたおかげで、戦いの命令がくだされなかったのです。そのようにして男爵は、一度も相手を傷つけることなく「本」で勝利しました。

■本のおもしろさが奇跡を起こす

 他にも、男爵はいろんな本を落としました。思想の本や、歴史物語や、天文学の本などなど。敵の兵士たちは本のおもしろさに目覚め、戦争をする手を止めて読みふけりました。

 本って、行ったことがない場所の知識を得たり、自分とは違う人の考え方を知ったりすることで、読めば読むほど想像が広がりますよね。

男爵が 詩集をまくと、詩人が はえてきました。

 独特な表現も、本書のおもしろさです。「詩人が はえてきました」という言葉とともに、弾が出るはずの銃から花が咲いている様子には、クスッと笑ってしまいました。本は人を豊かにし、人生をも変えてしまうことがあるようです。

■人の心を動かす「本の力」や「言葉の力」

 男爵の最後のアイデアは、家族からの手紙を落とすことでした。味方の兵士への手紙は、敵の陣地に。敵の兵士への手紙は、味方の陣地に。その中には、小さな子どもからパパに宛てられた手紙もあります。兵士たちは心を打たれ、銃を置いて、敵同士で肩を抱きあいました。

 こうして戦争は終わり、そらいろ男爵はその功績をたたえられて勲章を受け取りました。武器ではなく「本の力」や「言葉の力」で戦争を終わらせたのです。

■戦争とは何かを知ってもらう第一歩に

 読んだ後に、素敵な余韻を残してくれる本書。大切な家族を思い出させるエピソードもあり、親から子どもへ、子どもから親へとプレゼントする人も少なくないようです。

 命の大切さを、お互いの立場になって考えてみることも教えてくれます。子どもたちにとっては、戦争のことを自然とわかりやすく伝えてくれる本になるでしょう。

「なぜ戦争をするの?」「なぜ武器を使わないといけないの?」子どもたちからそんな質問が出てきたら、本書の出番。戦争とはどんなものか、命を大切にするにはどうしたらいいのかを、考えるきっかけになるかもしれません。

文=吉田有希