甲子園を夢見た日本人と朝鮮人――戦争の悲劇と運命の流転に打ち勝つ友情のドラマ『赤い白球』

文芸・カルチャー

2019/8/4

『赤い白球』(神家正成/双葉社)

『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞受賞作家、神家正成の新作『赤い白球』(双葉社)は、太平洋戦争勃発直前に甲子園を夢見た日本人と朝鮮人の友情、“特攻”の悲劇を描く青春と戦争の物語だ。

 その幕開けの舞台となるのは1939年の夏、朝鮮半島・平壌。甲子園出場を目指す平壌一中の一番セカンド・朴龍雅(パク・ヨンア)と二番ショート・吉永龍弘は、他人が見紛うほどよく似た顔立ちをした親友同士で、野球でも名コンビとして活躍を見せていた。ふたりの出会いは尋常小学校2年の夏の日。平壌の空を舞う戦闘機に見とれ、思わず追いかけた朴が転んで左頬に大ケガをしてしまい、近くで野球をしていた吉永が心配して声をかけたことがきっかけだった。

 そのとき、吉永が放ったボールを朴は受け止めた。自分の血で赤く染まった白球は、朴が野球を始めるきっかけにもなった。やがてふたりは打ち解けて、ともに野球に打ち込むようになる。朴の妹、雪松(ソルソン)と吉永の幼馴染の本城世枝子もまた甲子園を夢見て、そんなふたりを心から応援するのだった。

 しかし、時代は戦争へと突き進む。朴は志願して少年飛行兵となり、吉永は将校への道が約束された陸軍予科士官学校へと進学。戦況が悪化していく中、朴は東南アジアの撃墜王となり、朝鮮の英雄として「日本人よりも日本人らしい」と称賛されるようになっていく。そんな朴の懐には常にあの“赤い白球”があった。一方、少尉となった吉永はマニラに赴任。“捷号作戦”の指揮官となるのだが、それは航空機に爆弾を積んで敵艦隊へ捨て身の攻撃を行う“特攻”を命じるものだった――。

 野球の試合シーンではスピーディなアクションが目に浮かぶほどプレイが細かく巧みに描写され、夢を追う若者たちの眩しさに思わず声援を送りたくなってくる。しかし、物語が後半になれば、そんな夢を追っていた若者は戦闘機に乗り、命をかけて敵機と戦う。攻守の展開がめまぐるしく変わるリアルな空中アクションもまた手に汗を握るほどの緊迫感があり、その若者の運命を一変させた過酷な状況の変化に胸が痛む。大好きな野球をやりたかっただけの若者たちは、なぜ人を殺し、殺されなければならなかったのか。

 日韓併合によって同じ国家の民とされながらも朝鮮人として差別される矛盾。部下に生還する望みのない必死の特攻を命じる苦悩。巨大な力に抗うこともできず、「愛する者のため」と自らを納得させて死んでいく若者たち。自衛隊出身で韓国人の妻を持つ著者が「今持てるすべての力を注ぎ込んだ渾身の一作」という本作は、読者に改めて戦争の愚かさと恐ろしさを突きつけ、そのクライマックスの衝撃的な展開は驚きと感動を呼び起こすだろう。

文=橋富政彦