患者は嘘をついているのか、それとも――!? “仮病”と医療現場の実相を描く医学書ノベル『仮病の見抜きかた』

社会

2019/8/7

『仮病の見抜きかた』(國松淳和/金原出版)

 仮病とは何か。本書『仮病の見抜きかた』(國松淳和/金原出版)でも紹介されている辞書的な意味では「何かを断るための口実として病気のふりをすること」「病気ではないのに病気のふりをすること」とされている。学校や会社をサボるために体調不良を装ったことがある人もいるだろう。そんな人は本書の『仮病の見抜きかた』というタイトルにドキッとさせられるかもしれない。

 著者は、医療法人社団永生会南多摩病院に勤務している現役の内科医で「どんな症状・病態にも対応することを信条としている」という國松淳和医師。ただし、この『仮病の見抜きかた』は、著者が患者の嘘を暴く方法を指南する本ではない。本書は医学書でありながら10篇のショートストーリーで“仮病という現象”に医療がどのように対峙しているのかを描いた“医学書ノベル”という新ジャンルの本なのだ。

 激しく急な腹痛を繰り返すものの粗暴な風貌や振る舞いから近隣病院のブラックリストに入れられている元暴走族メンバー(「EP1 クロ」)、夜中になると「息が苦しい」「心臓が止まる」などと言い出して内縁の妻からも仮病を疑われている男(「EP3 曖昧色の季節」)、定期的に発熱するのに精密精査でも心療内科の診察でも異常が見つからない思春期の少女(「EP7 思春期の前提」)、「だるさ」の原因を探るために受けた複数の検査に不満を持って返金を要求する中年女性(「EP9 モンスター」)など、本書に登場するのは、素人だったら思わず「これは仮病なのでは?」という印象をもってしまうような患者たちだ。物語の語り手で総合内科医である“私”は、それぞれのケースで患者たちの話を聞くだけでなく患者の行動そのものを観察し、そして事前に診察した医師たちの話や検査結果から、患者を苦しめる症状について、ひとつの“仮説”を導き出していく。

 それぞれのショートストーリーは、この過程を「エピソード」「賢明な読者へ」「エピローグ」の3つのパートで描く。本書はあくまで医学書であり、ある疾患・病態を読者に伝えるという意図をもって書かれたものであるため、素人にはちょっと難しい専門的な内容になっているところはあるが、“仮説”を導き出していくプロセスの論理的な推理と展開はミステリーのような趣もあり、医療をモチーフにした謎解きのようなおもしろさもある。そして、何より興味深いのは、いわゆる“仮病”と疑われるような症状がどのようにして起こるのかという問題をひもといていくところだ。

「<仮病>を見抜くよい方法は、患者の全く意識が働いていないところをみることである」「症状がなくなってしまったら困ってしまう事情があるかもしれない」「嘘は思春期の前提」「患者を安心させるには<病気を見抜いてあげるという作業とその結果が必要>」「患者の嘘は見抜いてはいけない」など、数々の印象深い言葉をちりばめつつ、“私”は仮病の真相、そして患者が“真に求めているもの”に迫っていく。医師が“診断”を下すまでの思考の過程は、人間の心理の奥深さを探っていくことでもあると教えられる1冊だ。

文=橋富政彦