絵はすぐに上手くならない。でも上手くなるコツはある。コミケを目指す人も読んでおきたい上達の必須スキル

文芸・カルチャー

2019/8/9

『絵はすぐに上手くならない デッサン・トレーニングの思考法』(成冨ミヲリ/彩流社)

 目的はさまざまあれど、誰しも一度は「絵が上手ければなぁ…」と想像をふくらませたり、悩んだりしたことがあるのではないでしょうか。言葉以外で相手に何かを伝えたいときにも役立つ「絵心」。まもなく世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」も開催されるこの時期は、ひょっとしたら「抜群におもしろいアイデアやプロットは浮かぶのに、絵が下手だから作品を出せない…」とモヤモヤした気持ちを抱えて悩んでいる人たちもいるかもしれません。

 千里の道も一歩から。絵が上手い人はどんな練習をしているのか教えてくれるのが、デザイナーやアニメーターとして活躍する成冨ミヲリさんによる『絵はすぐに上手くならない デッサン・トレーニングの思考法』(彩流社)です。一瞬、ドキっとするようなタイトルながら、読んでみると「とりあえずやってみよう!」と勇気付けられるはずです。

 また、スタートしたらそれを完成させるのも上達への筋道。「完成させる力」がない人は、いつまでたっても何もできないということも、本書はあらためて教えてくれます。

■目から入った情報を、脳から手へ上手く伝達するのが肝心

 プロ向けのデッサンスクールでも指導する著者ですが、意外にも「最初は絵が上手に描けませんでした」と明かします。人間は「見えていないものは描けない」という真理を語る本書では、まず、絵を描くことと人の身体の関係性を解説しています。

▲描くべき情報を「目・脳・手」でどのように使い分けるべきか

 目から入った情報が、脳を経て手先に行き着くのはスポーツをするときと変わりません。肝心なのは、大きく分けたこれら3つの部位における「情報の流れ方をできるだけスムーズにすること」。それが、絵心を持つために必要な意識だと著者は述べています。

 情報の入り口となる目は、水門のような働きをするので、描こうと思ったら色々な角度から「目を凝らして」観察するのが大切。脳の中では「見えているものの中で描くべきものと描かなくてよいもの」を選別して整理整頓し、手はとにかくそれらの情報をきちんと再現できるように鍛えるのが、上達へのステップです。

■診断シートを使って自分の能力を可視化!

 今、自分がどれほど描けるかをみきわめておくことも大切です。本書には、自己分析に役立つ「能力別自己診断シート」と、それにもとづくレーダーチャート式の「絵の自己診断シート」も掲載されています。

 絵を描く能力とひとくちにいっても、自分が絵を何に使うかによって、必要な力は異なってきます。例えば、本書で分類されているひとつ、「マンガ・アニメ系」であればテクニックよりも、観察力などを総合的にみたその人自身の個性が必要となりうる傾向も。他では「イラスト系」では、オリジナリティが多少低くとも依頼に沿った絵が描けることなど、各シートを使えば、自分が絵を使ってやりたいことを見つけることにも役立ちます。

■センスとは“必ず自分の中に眠っている”力

 絵心の根っこには、いくつかの能力があり、例えば安定してアイデアを出せる力や、独自性を発揮するオリジナリティ。さまざまなモノの形を覚えている力や、立体感や陰影を理解できる力などその能力はさまざまです。

▲絵を描く上で求められる8つの能力

 ところで、よく絵を描くときに言われる「センス」という言葉を、著者はあえて用いていません。それは、その言葉自体に人や場それぞれにおける定義があり、場面によっては「センス=セオリー、ルールを身に付ける力」であったり、「センス=目が良くなり、違いが分かるようになること」だったり、と捉え方によってもさまざまに使われるからです。

 センスは、すべての能力にかかわる“土台”でもあり、誰もが「必ず自分の中に眠っています」と述べます。また、「身に付けよう」と意識するのではなく、「磨く」「掘り起こす」ことの大切さを指摘しています。なんでも続けていけばセンスは磨かれます。なにより、センスがあることないことで悩むくらいなら、技術的な面を磨くことでセンスに昇化させた方が効率的です。

 日頃の地道な練習も大切ですが、目的や意識がハッキリしていなければ上達できないというのも本書の説く「絵心の基本」。本書を読むと、「絵を始めてみたい」と思ったときはもちろん、迷ったとき、くじけたときに「もう一度、何度でも、描いてみたい」という気持ちにもなってきます。絵が上手くなりたいと願う人たちにとって、きっと背中を押してくれる1冊となってくれるはずです。

文=青山悠