80歳男性、パンツを下げて性器を露出…。介護ヘルパーが直面する在宅介護のとんでもない現実

社会

2019/8/10

『介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント』(藤原るか/幻冬舎)

 日本は今、超高齢社会といわれており、要介護者も増加している。それに伴い、介護が必要な人々が多様なサービスが受けられるよう、介護制度は順次整えられている。今後、介護の世界はより便利で、家族が頼りやすいように変化していくことだろう。

 だが、その一方で、利用者(要介護者)からのセクハラやパワハラに悩むヘルパーが数多く存在している。『介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント』(藤原るか/幻冬舎)は、個人宅という密室の中で利用者からのハラスメントに苦しむ訪問介護員の思いを収めた告白本だ。

■介護現場のハラスメントを多くの人が経験している

 2018年に日本介護クラフトユニオンが行ったアンケートによれば、回答者2411人のうち74.2%が利用者からなんらかのハラスメントを受けたことがあり、その内の40.1%がセクハラに当たる行為を受けたそうだ。

 訪問介護員を始めて28年という著者の藤原さんも、利用者からのハラスメントをこれまでに何度も経験してきた。しかし、自分の仕事は高齢者や障害のある人をケアすることなのだから多少は我慢しなくては…と考え自分を律していたという。

 日本で介護サービス利用者によるハラスメント問題がなかなか明るみに出なかったのは、藤原さんと似たような考えを持つヘルパーが多かったからだろう。しかし、2017年にアメリカで起こった「#MeToo」運動に影響を受け、日本でもセクハラをなくそうという流れが加速すると、ヘルパーも仕事中に経験したハラスメントについて声を上げやすくなった。時代はまさに変わろうとしているのだ。

 藤原さんは個性豊かな高齢者や障害者の方たちと出会え、自分を成長させられる介護職にやりがいを感じ、誇りを持っている。だが、ヘルパーの労働環境は苛酷で、離職率も高いという。

■被害に遭っても泣き寝入りしなければならない現場の事情

 ヘルパーの仕事は、利用者のセクシャルな部分にも関わる。たとえば、女性ヘルパーも、排せつ介助や入浴介助時に男性の陰部に触れなければならないこともあるため、性的な要求に出会う可能性が高くなる。だが、仕事で利用者宅を訪問している以上、危険を感じてもその場から逃げ出せない。そのため、セクハラを受け、泣き寝入りしたり離職してしまったりするヘルパーも多いというのだ。

 実際、藤原さんも大人用紙パンツを下げて性器を出しながら迫ってきた80歳近い男性に出会ったことがあるそうだ。しかし、その男性は感情失禁が起こりやすい、前頭側頭型認知症であったため、感情のバランスを崩してそういった行動をとってしまった可能性もあったという。利用者の中には、このように病気によって感情バランスが崩れ、性衝動が掻きたてられる人もいるため、ヘルパーが受けた被害を単純に「セクハラ」だと言いにくいのもまた事実なのだ。

 だが、たとえば新人ヘルパーがこうした被害を受けると、職を辞してしまいやすい。現に、藤原さんの知人のヘルパーも介護者にキスを迫られ、ベッドに押し倒されたことで自分を責め、うつ病になって休職してしまったという。セクハラは、ヘルパーが人手不足となる一因となっているのだ。また、男性ヘルパーの数は女性ヘルパーよりも少ないため、よほど悪質なケースでない限り問題があっても女性ヘルパーが訪問を続けなければならないという現状も多くの関係者を悩ませている。

 こうした状況を改善する一番の近道は、ヘルパーの労働環境を見直すことだろう。ヘルパーは社会的に意義のある仕事でありながら、その労働に見合った賃金がもらえないこともあるため、人手は慢性的に不足しており、欠員の穴を埋めるだけで精一杯になってしまう。

 だが、賃金を含めて労働環境を見直すことができれば、より多くの人手も集まり、仲間とハラスメント問題を解決する糸口についても考えられるようになるだろう。ヘルパーが直面している実情を知ることは、私たちの関わる未来の介護をよくすることに繋がっていくはずだ。

文=古川諭香