オレオレ詐欺、結婚詐欺…あらゆる詐欺師たちが騙し合う壮絶な「裏社会」の沼

文芸・カルチャー

2019/8/15

『オレオレの巣窟』(志駕晃/幻冬舎)

 2018年に北川景子主演で実写化映画が公開された『スマホを落としただけなのに』(宝島社)は、作者である志駕晃の名前を世に広く知らしめた。独特な世界観の中で巻き起こるスリリングな展開に、読者や視聴者はハラハラさせられたものだ。そして、志駕が手がけたスマホシリーズは続編も大好評となり、2020年には人気アイドルグループ「乃木坂46」の白石麻衣をヒロインとしてシリーズ第2弾『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(宝島社)も映画化されることが決定している。

 そんな大注目の作家が挑んだ新作、『オレオレの巣窟』(幻冬舎)はスマホシリーズ以上にスピード感があるエンタメミステリーだ。

■オレオレ詐欺の首謀者が堅気の道を目指すが…

 主人公の平田伸浩は、いくつものオレオレ詐欺グループをまとめる首謀者。昔、共に闇金業を行っていた立川と共に金持ちの老人相手にオレオレ詐欺をはたらき、荒稼ぎをしていた。

 そんな時、平田は詐欺の成功を祝うパーティーで、東島真奈美という女性と出会う。真奈美は奨学金を返済すべく借金を重ねた結果、生活苦に陥り、デリヘルで働きながらお金を稼いでいるという。

 パーティーで互いの身の上を明かし“後ろめたさ”を共有し合った2人は自然に惹かれ合い、恋に落ちる。そして、真奈美との未来を真剣に考えるようになった平田は、オレオレ詐欺から足を洗い、堅気の世界で生きようと決意する。一度、真奈美に別れを告げ、人生を再スタートさせてから、彼女を迎えに行こうと決めたのだ。

 しかし、平田の固い決心に反し、彼の人生は思いがけず危ない方向へと転がっていく。しかもそのスピードは読者が手に汗握るほどだ。平田は嘘だらけの世界から無事に抜け出し、真実の愛を手に入れることができるのだろうか――。

■“騙し合いの饗宴”を勝ち抜くのは誰?

 本作最大の見どころは、ラストに待ち受ける「大どんでん返し」だろう。作中には、オレオレ詐欺の架け子になりたいと願う男や、次々と女を騙すイケメン結婚詐欺師、出会い系のサクラをしている女など、真意の読み取れない人物が多数登場し、物語を怪しげな方向へと運んでいく。バラバラに描かれていた人物たちが繋がり合い、ひとつの結末へと転がり込んでいく様は圧巻だ。

 また、視点となる人物を変えながら進むストーリーには、普通の生活をしていて耳目に入らない「裏社会の実情」が事細かに描かれているため、読者はまるで自分もその世界の住人になったかのような気持ちになるかもしれない。

 もしかしたら、サスペンス小説を読みなれているという方は、「詐欺師」や「どんでん返し」というキーワードを目にして、読み始める前からある程度、ラストの衝撃を予想するかもしれない。だが、その予想を遥かに上回る“裏切り”が待ち構えているので、ぜひそれも楽しんでいただきたい。

 本作はまるで「劇場型詐欺」を目の当たりにしているかのような臨場感がある。自分だけは絶対に騙されないという自信はきっと仇となり、自滅を呼ぶ。“詐欺師たちの騙し合いの饗宴”を勝ち抜くのは、一体誰なのだろうか? スリル満点の痛快エンタメミステリーは、強烈な後味をあなたの心に残すはずだ。

文=古川諭香