「これまでの伊坂作品どれにも属さない《新感覚》」「こういうのが読みたかった!」早くも絶賛の声が集まる小説『クジラアタマの王様』

文芸・カルチャー

2019/8/17

『クジラアタマの王様』(伊坂幸太郎/NHK出版)

 伊坂幸太郎氏が「長年の夢がようやく叶った」と語る最新小説『クジラアタマの王様』(NHK出版)。「昼間は普通の会社員、夜になるとロールプレイングゲーム内の勇者」という発想を起点に、現実と夢が溶けあっていく不可思議な読み心地にくわえ、挿絵がわりにコミックパート(セリフのないマンガ)が随所に挿入されるという、新しい試みの小説だ。読書メーターにはこんなコメントが寄せられている。

これまでの伊坂作品どれにも属さない、《新感覚》の素晴らしい作品でした。‬いい意味でこれまでの伊坂さんぽさもなく驚き。‬‪まさに「伊坂幸太郎」が、新しい時代に突入した。‬‪たくさんの人に手に取ってもらい、小説の可能性の広がりをぜひ感じ取って欲しいです。(すぐ)‬‬‬‬‬‬‬‬

 だが、これまでの伊坂作品にはない実験的な小説――と思いきや、「これぞ伊坂幸太郎!」と読み終えたあと膝を打たずにはいられない“らしさ”全開なのも本作の魅力だ。『ダ・ヴィンチ』9月号では、池田エライザ、上白石萌音、清原翔という伊坂ファンを公言する注目の若手俳優たちがその魅力を語っているが、一様に言うのは「伊坂さんの魅力はちりばめられた伏線が回収されたときの爽快感、そして魅力的なキャラクター」。今作でもそれは健在だ。

こういうの!こういうのが読みたかったの!! これはなんか賞取らなきゃおかしいでしょ!! 魅力的な登場人物たち、夢と現実の連動、オシャレでクールな会話、伊坂節の王道。伊坂作品にたまにある理不尽な残酷シーンもなく、もう大好きな要素しかない。ワクワクが止まらずどんどん読んじゃう反面、読み終わるのが名残惜しくなる感覚はかなりひさしぶり。コミックパートも作品の世界観にピッタリ。私にとって今までで一番大好きな伊坂作品となった。小説の世界を思いっきり楽しんで、読み終われば明るい気持ちで現実に戻れる。素敵な読書体験でした。(け)‬‬‬‬‬‬‬‬

 と語る読者もいるとおり、伊坂ファンも大納得、どころか大興奮の作品なのである。

 主人公は、製菓会社につとめる岸。クレーム処理をきっかけに議員の池之内に出会い、「同じ夢を見ている」ことを知らされるのだが、人気俳優の小沢ヒジリも仲間で、彼自身も夢を覚えているという。岸だけはさっぱり記憶がないものの、3人がある過去も共有していることに気づき、現実でも関わりをもつにしたがって、夢でも現実でも次々と危機が襲いかかってくるように。ともに立ち向かう3人の描写はもちろん、「まさかそんなところまで繋がるなんて!」と驚かされる緻密な仕掛けは伊坂ファンならずとも胸を躍らせるはずだ。

あるサラリーマンと夢の物語。伊坂作品らしい疾走感とクスリと笑わせる文章に、いつも通り一気読みしてしまう。ファンタジー要素の強い冒険譚みたいに読み進めていったが、終盤、主人公が自ら立ち上がる場面では、急にピシャリと現実感をぶつけられたように感じ、自分自身も平手打ちをくらったようにハッとさせられた。これは誰の人生だ?何が自分を救うんだ? 夢の帰趨に人生を仮託するのか? といった疑問が走馬灯のように襲ってくる。「自分の人生を決するのは自分だぞ」と肩を揺さぶられるような思いがした。今作も面白かった。(ユウ)‬‬‬‬‬‬‬‬

挿絵がただ物語の一場面として入っているのではなく、読者に謎を提供してくる。初めての読書体験でした。エンターテイメント作品として素晴らしく、先が気になり黙々と読み進められました。社会問題を効果的に盛り込んでいるところは伊坂さんの作品だなぁ〜としみじみ感じました。ネットの言葉や周りの言葉をほいほいと信じるのではなく、自分の目で見て頭で考えて翻弄されない自分を作っていきたいですね。『自分以外の誰かが、自分を操作している。そう感じたことがないか』私もそう感じて怖くなる時があります。(*N*)‬‬‬‬‬‬‬‬

目を開くと映し出される世界。目を閉じると浮かび上がる世界。どこへ向かっていくのか予測不能。だから、どきどきする。わくわくする。本との呼吸が合ったとき、身体の内側からふふふって満たされていく心地よさ。この感じって、私のなかでは本を読んだ時にしか味わえない大切なもの。こういう感じを教えてくれた伊坂さん。与えてくれる伊坂さん。やっぱり大好きです。(春が来た)‬‬‬‬‬‬‬‬

 コメントにもあるとおり、本作にはただおもしろいだけではない“メッセージ”がある。瑕疵がある、と思われる人間を徹底的にとりかこみ追及するマスコミと世間。「どうしてそんな風に僕たちを叩き潰す言い方ができるのか」と岸は言うが、その問いかけはどこか、かつて著者の書いた『ゴールデンスランバー』にも通じるものがある。何を信じて、何を貫くべきなのか。先の見えない“明日”を決めるのは誰なのか。爽快なエンターテインメントを楽しんだあと、ふと考えさせられてしまう本作。

 帯にうたわれる「伊坂幸太郎の神髄」という言葉に嘘偽りないことは、読めばきっとわかるはずである。

文=立花もも
(※テキストは「読書メーター」より引用)

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