「とりあえず生!」は本当は間違い!? 思わず人に教えたくなるビールの魅力

マンガ

公開日:2019/8/21

『まんがでわかる ビールが10倍美味しくなる知識』(藤原ヒロユキ:原案、いっさ:作画、サイドランチ:編集協力/小学館)

 飲み会などで「とりあえずビール!」となることが多いけれど、漢方に詳しい人からは、あまりよろしくないという話を聞いた。ビールがと云うより、冷たい物を先に飲むと寒さで身が縮こまるように胃の機能が低下して、それから飲み食いするのでは胃に負担がかかるからとのことで、まずは温かい物を飲んで胃に準備運動をさせるのが良いらしい。その話を聞いてからというもの、飲み会に参加する前には温かいお茶を飲んでおき、家では食事の前に入浴をして十分に体を温め、ビールを飲む準備運動を欠かさないようにしている。

 ところが、近年ではそのビールも「若者の○○離れ」の一つとなっており、国内でのビールの出荷量は減少の一途だそうだ。この手の「若者の○○離れ」は、そもそも「若者が近づいていない」とする説もあることだし、まずはビールの魅力を伝えなければと勝手な使命感で見つけたのが、『まんがでわかる ビールが10倍美味しくなる知識』(藤原ヒロユキ:原案、いっさ:作画、サイドランチ:編集協力/小学館)である。

 ビール好きの主人公のOLが、店内に醸造所を併設し製造したてのビールが飲めるブルーパブに通って、マスターとその奥さんからビールの歴史や種類などを学ぶスタイルの本書は、純粋に知識を得る面白さがある。

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 主人公は「サーバで注いだビールが生ビールでしょう!」と云っていたが、「生ビール」は「熱処理をしていない」ビールのことを指すため、居酒屋で「とりあえず生!」と注文した結果、缶ビールが出てきても間違いではない。近年では珍しくなったものの、「サッポロラガービール(通称:赤星)」や「キリン クラシックラガー」など、加熱処理してあるビールは根強い人気があるから、個人的にはぜひ生ビールと飲み較べてもらいたいところ。

 ビールの歴史は古く、紀元前4000年頃のシュメール人が残した粘土板にはビールをストローで飲む姿が彫られており、焼いたパンであるビールブレッドなるものを水に漬ける醸造法の記録も残されている。さらにビール造りはエジプトでも発展していき、滋養強壮効果からピラミッドを作った労働者にも振る舞われていたそうだ。

 そしてビールの歴史において、大きな変革期が1516年に訪れる。バイエルンの王ウィルヘルム4世によって「ビールは、大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」という法律が公布され、ドイツの一部では現在でもこの法が頑なに守られているという。

 その後、顕微鏡の発明とともに「酵母」が発見されると、先の法律での原料に加えられることになり、さらに低温を維持する仕組みの「アンモニア冷凍機」、ビールの保存管理を飛躍的に向上させた「低温殺菌法」、酵母を確保する技術として「酵母純粋培養法」といった3つの発明によって、現在のビールに続く道が切り開かれていく。本書で紹介されるビールのスタイル(種類)は多岐にわたり、その解説はまるで科学の実験である。しかし難しいことはなく、むしろ香りや色の違いなどの理由が分かると、飲み較べる愉しみが増すはず。個人的には、家でビールを注ぐ前にグラスを改めて水洗いすると、なんだかビールの味が薄まってしまうように思っていたが、水でグラスに膜を張っておいたほうが泡立ちが良いそうで、そのうえ缶ビールをグラスに注ぐときの3つの方法による味の違いも、科学的な根拠に基づく解説が面白い。

 ところで、本書には少ないページながら「基本的なビールグラスの種類と特徴」が紹介されていて、基本的な物だけで10種類もあった。それぞれ気泡を長く立ち上がらせるタイプや、香りや炭酸が抜けにくい形、反対に香りを引き出す物など工夫が凝らされている。つまりは、飲み較べようと思ったらビールそのものだけではなく、グラスも揃えなければならないのだ。いや、もちろん義務ではない。義務ではないが、ハマッたら追求したくなるもの。本書でもマスターが云っている。「ビールを楽しむ秘訣は、なにより“遊び心と探究心”だと思う」と。

文=清水銀嶺