連続殺人の狙いは?――読後に残るのは一筋の希望と不条理。堂場瞬一最新警察小説『凍結捜査』

文芸・カルチャー

公開日:2019/8/20

『凍結捜査』(堂場瞬一/集英社)

 組織の闇を暴いたり、組織の圧力に怯まず個人の「正義」を貫いたりというのは、ビジネス小説などでは定番のテーマだ。実際、社会人になってみると、大なり小なり青くさい正義感だけでは問題解決が難しい現実にぶち当たるもの。ならばせめて小説の世界では正義を貫くカタルシスを味わいたい…私たちは知らず知らずそんな期待を託しているのかも。

 とりわけ「警察小説」というジャンルでは、そうしたテーマが定番中の定番といえるだろう。ただし警察という「絶対的正義であるはずの巨大な組織」が相手なだけに、そう簡単に胸のすく結末が得られるわけではないのがミソ。事実、堂場瞬一さんの書き下ろし文庫『凍結捜査』(集英社)でも、読後に残るのは一筋の希望、そしてなんともいえない「不条理」だ。だがそれこそが、現実というもののリアルな手触りなのかもしれない。

 大沼で殺しが発生…北海道警・函館中央署の刑事課に所属する保井凛のもとに後輩からの一報が入り、恋人である警視庁捜査一課の神谷と休暇を楽しむはずだった凛は神谷を残して現場に急行する。まるで海外マフィアの処刑のように、至近距離から後頭部に2発の銃弾を受けて殺された男の名は平田。婦女暴行事件の専門家である凛が、かつて札幌市で担当した事件の被疑者だった。当時は被害者・水野珠希の訴え取り下げにより捜査終了となったが、数日前に平田が珠希の住む函館に移ってきたことを確認した凛は、安全のため珠希に注意を促していた。怨恨を理由に珠希が殺したのか? 疑いがかかる中、肝心の珠希は事件当日に忽然と姿を消し、東京のホテルで平田と同様の手口で殺された遺体となって発見される。急ぎ上京する凛とそれを迎える神谷。それぞれの想いは胸の奥にしまい込み、共に事件解決に向け奔走するが――。

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 捜査が思うように進まないジレンマを抱えながら、なぜか身内であるはずの警察からと思われる謎の圧力を受ける凛と神谷は、職務を全うしているだけなのに、いつの間にか命を危険に晒す立場にまで追い詰められていく。そして深まる謎が明らかになった時、胸に残るのは「正義とは何か」という大きな問いだ。単純な希望ではなくどこか割り切れない混沌とした感慨を残すのは、まさに堂場作品らしさといえるだろう。

 ちなみにこの物語は、ドラマ化もされた2013年刊行の『検証捜査』(集英社)の兄弟編という位置づけ。ほかに『複合捜査』『共犯捜査』があるが、凛と神谷が主人公として描かれる本作こそ待望の続編といえる。前作で凛と神谷と共に神奈川県警の不正を暴くために奮闘した面々が随所に顔を出すのも楽しいが、さらに興味深いのは凛と神谷の関係だ。前作では恋人未満だった2人はすでに恋人同士となり、前作では暴走しがちだった神谷が、心に傷を抱えた凛を包みこむ大人の余裕を見せる。とはいえ互いに多忙で、せっかく会えても仕事の話になってしまう刑事同士の恋は、不器用というか生真面目というか。だが誰を信じていいのかわからない殺伐とした世界でも、安心できる誰かがいてくれるだけで心強い。2人のもどかしさも、重苦しいドラマに彩りを添える人間らしい温もりに思えてくる。

文=荒井理恵