3000人以上を看取った医師が伝える自己肯定感を高める「折れない心の育て方」

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公開日:2019/8/28

『折れない心を育てる いのちの授業』(小澤竹俊/KADOKAWA)

『折れない心を育てる いのちの授業』(KADOKAWA)は、緩和ケアを専門に行うホスピス医である著者・小澤竹俊さんが、悩みを抱える思春期の子どもたちに向けておくる1冊。悩みを持つ中学生と、対話する医師が登場する物語形式で、多くの患者の命に向き合ってきた医師ならではの考え方が綴られています。

 本書の主人公は中学生ですが、その内容は大人にも応用できそうなことばかり。親子で読むのはもちろん、様々な悩みを抱えている大人が一助として取り入れるのに、ぴったりの本です。

■希望と現実に開きがあると、人は苦しみを感じる

 そもそも、なぜ人は苦しくなるのでしょうか。

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 本書によると、「希望と現実に開きがある」ときに人は苦しみを感じるそうです。つまり、「こうであればいいのにという希望」と「実際にはそうではない現実」の開きが大きければ大きいほど、その苦しみは深くなるのです。

「苦しみが何か」ということをその視点から考えることで、ある程度理論的にとらえることができるそう。それが意識的にできるようになると、悩み・苦しみと向き合う第一歩となり、自分自身はもちろんのこと、他人の気持ちを理解するときの助けにもなりそうです。

■苦しみは比べられるものではない

 苦しいとき、「なんで自分だけこんなにつらい目に…」「○○さんのようにうまくできればいいのに…」などと、自分と誰かを比較することで、落ち込んでしまうことがあります。

 本書では、「苦しみは比べられるものではない」と言っています。世の中には、病を抱えているからといって不幸とは限らないし、恵まれているように見えて壮絶な悩みを抱えた人もいるわけで、「自分だけが不幸」とは自分で勝手に決めたエゴなのかもしれません。

 物語の中で、余命いくばくかの患者さんが書いた手紙が出てきます。一見すると、あと少しでこの世からお別れしようとしている人は、苦しんでいて不幸に見えるかもしれません。でもその手紙の主は、「今が一番幸せ!」と言い切っています。なぜなら、病気の告知があってから闘病した間を「準備期間」として、急じゃなくて、さようならの時間があって、幸せな時間を持つことができたから。手紙の主にとっては、それが幸せであり、納得のいく最期だったのです。

 幸せとは、自分の基準で決めることであり、他人が決めることではないことを物語っています。

 苦しみも幸せもみんなそれぞれ。「みんなきっと、いろいろある」と考えれば、「こんなものなのかな」とある意味、自分を肯定的にとらえることができるし、周りの人にも優しくなれるような気がします。

■「選択の自由」が人生の支えに

 本書からは、人が苦しみや困難と向き合って歩み続けるために、「いかに生きるか」というメッセージが浮かび上がってきます。そして、人が生きるには「支え」が必要であり、その支えは、家族や友人はもちろん、他にもあることを語っています。

 例えば、人は「選ぶことができる自由」を持っていて、それもまた生きるための支えになると言っています。本書で例として出てくるのは、人生の最期を迎える場所を自分で決めること。慣れた我が家なのか、それとも施設なのか…。自分の希望により選択することで、人生の最期を穏やかに過ごすことができるそうです。

 これは医療だけではなく、日常のあらゆる場面で、自分が自分らしく過ごすために必要な考えだと思います。あたり前のように過ごしている日常も、自分の「選択の自由」から生まれていると思うと、自分の人生に責任を持てると強く感じました。

 解決が難しそうな苦しみを抱える人はもちろん、「仕事がうまくいかなくてつらい…」「会社の人間関係に悩んでいる…」など、日常の中でちょっとした悩みを持つ人にも、役立つヒントがつまった1冊です。

文=吉田有希