サイコパスより恐ろしい「平凡な人」。平気で他人を蹴落とす「怖い凡人」から身を守るコツ

社会

公開日:2019/8/22

『怖い凡人』(片田珠美/ワニブックス)

 サイコパスに関する情報が多く発信されている近年は、「怖い人=サイコパス」という図式が頭の中に浮かびやすい。だが、本当に怖いのはもしかしたら、どこにでもいる「凡人」なのかもしれない…。『怖い凡人』(片田珠美/ワニブックス)は、あなたの隣で身を潜めているかもしれない“危険な凡人”から身を守るための警告でもある。

 企業や官公庁、学校、あるいはママ友やサークル活動といった組織を見渡してみると、「なぜこの人が…?」と思えるほど“平凡な凡人”がトップやリーダーの座にいることがある。特にずば抜けた能力を持たず、努力もしていない凡人がトップへのし上がれるのは大半の場合、「上司を批判せず、服従してきたからだ」と本書の著者、片田氏は指摘する。この手の凡人は自己保身しか考えておらず、手段を選ばないという。そして、上の人に服従するだけなので、自分の頭で考えないという特徴を持っている。

 歴史を振り返ったとき、その典型だといわれるのがナチス親衛隊の中佐でユダヤ人を強制収容所に移送していた、アドルフ・アイヒマンだ。アイヒマンはヒトラーの意向を「法」とみなし、服従する。ユダヤ人虐殺という悪に手を染めた。彼の指揮下で逮捕され、収容所に送られて亡くなったユダヤ人の数は数百万にものぼるとされる。

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 アイヒマンは一見、歴史に名を残した“特殊な人物”のように思えるかもしれない。しかし、実はそうではない。片田氏いわく、日本の風土は特にアイヒマン的凡人を育む土壌が整っているため、誰でもアイヒマン的な「怖い人」になりうるのだという。

■凡人が「怖い人」に変わる瞬間とは

 どこにでもいる普通の凡人が、なぜ「怖い人」に変貌してしまうのか。その理由をひもとくためにあわせて考えたいのが、2018年に注目を集めた日本大学アメリカンフットボール部の選手による悪質タックル事件だ。

 この事件は、日本大学のアメフト選手が関西学院大学の選手に悪質なタックルをして、全治3週間の怪我を負わせたというもの。当時、日大アメフト部の監督を務めていた内田正人氏の独裁的な指導や、監督の意向を「法」とみなして従っていたコーチ・井上奨氏の言動も大きく報道された。この指導者2人の力関係を考えてみると、「怖い凡人」が生まれる背景が見えやすくなる。

 この監督のように周囲の人を恐怖で支配し、組織を思い通りに動かそうとするトップがいるとする。そして、彼らの暴動に拍車をかけるのが、コーチのように、上の人にはたてつかず、服従する存在だ。

 服従的なイエスマンは、自分よりも強い者に対しては平身低頭し、自己保身を図ったり、自ら率先して「使い走り」にもなったりするが、その後は、自らも独裁的支配者になる可能性がある。こうした縮図は、職場やサークルでも見られるのではないだろうか?

■あなたも「怖い凡人」のひとりになっていないだろうか?

 無批判でゴマすりの上手い部下は、上司からすれば都合がよく、人が嫌がるような汚い仕事も押し付けやすい。リーダーシップを発揮することがなく嫉妬の対象にはならないため、上司は危機感を覚えないという。「怖い凡人」はこうして誕生していくのだ。暗に協調性が求められる日本では、「暗黙の同調圧力」がかけられることが多い。場の空気を読み、上の人の意にそぐう言動をすることが美徳であると思われているため、怖い存在が生まれやすいのだ。

 だが、そういった生き方は、本当にその人が求めているものなのだろうか? 本稿を読みギクリとした方は、あなた自身が怖い凡人にならないために、「私は私らしく生きているだろうか?」と自分の胸に問いかけてみてほしい。

 本書は、すでに周囲にいる「怖い凡人」に悩まされている方にとっても、身を守るためのガイドブックとしても心強い。最終章では、身を守るための冷静な観察法や、怖い人の対処法が数々記されている。あなたが自分を守るには、まず“人間の怖さ”を知ることが大切だ。

文=古川諭香