40歳の地味処女「田中さん」――スタイル抜群のセクシーダンサーの生き様に全女子が惚れる…!

マンガ

公開日:2019/8/30

『セクシー田中さん』(芦原妃名子/小学館)

 女性として生きる上で「若さ」という言葉は、あまりに残酷な響きをもって迫ってくる。それは単純に、妊娠や出産など身体面での有利性としても存在するし、世間の「市場価値」のような点でも呪いの言葉として確かにある。

「美魔女」という言葉だって、「その年齢には到底見えない」という「老い」に逆らった女性に対しての勲章である。女性が年相応に年齢を重ねていくこと、それが「よきもの」として感じられるモデルがいない限り、過剰なほどの「若い女性信仰」が横行するメディアに囲まれた現代の私たち女性は、本当の意味で自信をもつことが難しいのではないか…。

 私自身アラサーになり、その事実に憂えているときだったから、芦原妃名子著『セクシー田中さん』(小学館)という作品に出会ったときは、心が震えた。

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 この作品は、婚活中の派遣OL倉橋朱里が、とある女性の「生き様」に惚れる物語だ。

 朱里は23歳で、可愛らしい見た目と愛嬌でモテる、自他共に認める“愛され女子”である。しかし、そんな彼女の男性に求める理想は、かなり細かいが、それほどハイスペックでもない。

(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

「普通」で「堅実な人」がいい。「幸せになりたいわけじゃない」そう語る朱里。彼女は就活に失敗し続け派遣として就職。その最初の給与明細を見たときに、独りでは生きていけないと悟った。だから、合コンに足繁く通い、不幸にならないためのリスクヘッジをするために「普通の人」を探し求めるのだ。

 可愛いけれど、実は自尊心が低い彼女は、都合よく寝床を求めてくる男友達のことも切れず、合コンには男ウケを最大限に考えた格好で参上し、結果的に中身が空っぽの女性だと思われナメられる。

(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 そんな自分の浅はかさなんて、言われなくても朱里自身痛いほどわかっている。モヤモヤし続ける彼女は、しかし、ある日同僚たちと訪れたペルシャ料理店で衝撃的な出会いをする。

(c)芦原妃名子/小学館フラワーコミックス

 客前できらびやかな衣装に身を包みベリーダンスを踊る女性は、会社でその仕事ぶりから「経理部のAI」と呼ばれ変人扱いをされている田中京子だったのだ。

 普段はメガネをかけ、化粧っ気のない姿で仕事をしているアラフォーの田中さん。背も高く、コミュ障な性格から他の女性社員にはバカにされている。しかし、夜は妖艶なベリーダンサーSali(サリ)となり、客たちをトリコにしてしまう。

 堂々と踊る田中さんの姿を見た朱里は、自分とはまるで違う女性の強さを感じ、一気にファンになってしまう。嫌がる田中さんにつきまとい、自分までベリーダンスを始めてしまう始末だ。しかし、田中さんと一緒にダンスを習い、じょじょに自分らしさが解放されていく朱里の姿は、それまでの“愛され女子”だったときよりもずっと愉快で魅力的だったりするからおもしろい。

 物語が進むにつれて、アラフォーになってからベリーダンスを始める田中さんの美しさ、気高さ、しなやかさが読んでいる人間の心を掴む。朱里がファンになるのも当然だ。きっとこの作品は、多くの女性にとって「若さ」の呪縛を解くものになるに違いない。

 また、作中に出てくる、THE昭和脳な発言を繰り返す男性銀行員・笙野(しょうの)がまたいいキャラクター。彼との応答が、この作品を単なるファンタジーに終わらせない役割を担っている。世間の偏見がある中で、ときには耳を傾けながら、それでも自分の欲求に忠実に邁進する田中さんの姿は、きっと読む人に希望を与えてくれるはずだ。

文=園田菜々