史上最凶の後味の悪さ! 読了後のモヤモヤと読者の想像が止まらない、ホラー短編集『悪い夢のそのさき…』

マンガ

公開日:2019/8/25

『悪い夢のそのさき…』(うぐいす祥子/集英社)

 悪い夢だったらいいのに――。

 自分にとって不都合な出来事が起きたとき、そんな風に願うことは少なくない。夢から醒めた瞬間のように、すべてなかったことにしたくなる。『悪い夢のそのさき…』(うぐいす祥子/集英社)は、人々にふりかかる悪夢のような出来事と“そのさき”を描いた物語である。

 本作の魅力は、読了後に残る形容しがたいモヤモヤ感。1話ごとにストーリーが完結している短編集であるにもかかわらず、読み終えたあともどんどんと悪夢が広がっていき、頭から離れなくなってしまう。本記事では、収録作品のなかでもっとも印象深かったものをご紹介したい。

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 第3話「彼女のスーツケース」の主人公は、若いカップル。人目を引くほどの美貌を持つ和代は感情の起伏が激しい女性だ。急に恋人を殴ったかと思えば、深夜に化物を見たと言って呼び出すこともある。そんな和代のエキセントリックな言動に恋人である研二は困り果てていた。

 ある日、研二は和代から「飼い犬の死体を一緒に埋めてほしい」と頼まれる。犬が入っているとは思えないほどの大きなスーツケースに疑問を持ちながらも、彼は山道に車を走らせた。不信感を覚えた研二が強引にスーツケースを開けると、中にはどう見ても犬の死体ではない“なにか”が入っていた。茶色の皮膚に尖った歯を持つ、化物だ。パニックに陥った研二はとっさに化物の首を穴掘りスコップで突き刺した。

 作者であるうぐいす祥子氏のセンスが光るのはここからだ。冷静になった研二が化物を調べると、チャックのようなものが背中についている。その瞬間、彼の頭には“あること”が浮かんだ。半信半疑でチャックを開けると、化物の中には和代の妹・鈴江が血を流した状態で息絶えていた。呆然とする研二に、和代はたたみかける。

姉の恋人を奪うような悪い妹には怪物の姿がお似合いね
それで……あなたが殺した死体だけど どうする?埋める?それとも自首する?

 読者に“悪い夢のそのさき”をイメージさせる、なんとも奥妙な結末である。本作の持つ、得も言われぬモヤモヤ感が伝わっただろうか。

 このほか、死んだ女の子がイケメンの猟奇殺人鬼に憑依する「恋の亡霊」や不気味なゆるキャラが登場する「ぼくとタマッシー」など、読み口の異なる作品を全10編収録。コミカル・グロテスク・サイコなど、あらゆる要素が詰め込まれているので、最後まで飽きずに読み続けられる。ぜひ想像力をかきたてながら、後味の悪い結末と読了後のモヤモヤに向き合ってほしい。

文=山本杏奈