作者はこの物語を最後まで描けるのか……ホラーマンガの名手・外薗昌也の体験談をもとに描かれた『インソムニア』

マンガ

公開日:2019/8/25

『インソムニア』(外薗昌也/KADOKAWA)

 夏の風物詩といえば、祭りや海、そしてホラーだろう。ホラー作品は見る者を内側から涼しくしてくれるものだ。特に現実味を帯びたリアリティのあるホラーや、誰かの体験談は、「いつか自分の身にも起こるのでは…」と思わせる。『インソムニア』(外薗昌也/KADOKAWA)はまさにその代表格であり、リアリティあふれるホラーの世界を描いた短編集である。

 物語は零夜から九夜までの全10作+読み切り2作の短編で構成されており、それぞれが独立した物語である。中でも特筆すべきは零夜だ。『インソムニア』を描くことになった外薗昌也氏が実際に体験した出来事が描かれている。そして彼が零夜の最後に放った言葉が、これから読み進める読者に本作の怖さをよりリアルに伝えている。

無事この「インソムニア」を最後まで描き切れるかどうかだけが心配である…

 私自身は心霊体験をした経験がほとんどなく、幽霊を信じていないし怖がりでもない。

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 しかしなぜか、本作で描かれる世界は現実味を帯びすぎていて、恐怖と気味の悪さで目を背けたくなってしまったのだ。読み進めていく中で「自分がこんな目にあうのはごめんだ……」と何度思ったことか。

 またもし読む勇気があればだが……、話の合間に書かれている「外薗昌也の怖すぎるこぼれ話」にも注目していただきたい。ここにも外薗氏は体験した事実談を文章として載せている。しかし、なぜ漫画として描かれなかったのかもったいないくらいゾッとしてしまう話であふれている。事実がフィクションを凌駕しているといっても過言ではない。

 本作を読み終えたとき、最初に思い浮かんだのは「外薗氏は無事に続編を描けているのだろうか」という疑問だ。もし描いている途中になにか起これば、外薗氏が描くインソムニアの結末は一生見られなくなってしまう。目を背けたくなるほど怖い話ばかりの作品だが、本当に外薗氏は無事に描き終えることができるのかも含め、物語の結末は絶対に見届けたいと思ってしまった。

文=トヤカン