『偽りのフレイヤ』1巻ごとに容赦のない展開が続々! 泣き虫少女は王子の身代わりとして、国を守ることができるのか

マンガ

更新日:2021/4/28

 さだめを背負って戦う少女の物語が好きだ。ありのままの自分を見出してもらうよりも、ふりかかる理不尽をはねのけて立ち上がる少女の覚悟が見たい。ありのまま、なんていうのは、その過程でどうしたって滲み出る。消せない個性と、傷だらけになりながら身につけていく力。『偽りのフレイヤ』(石原ケイコ/白泉社)の主人公・フレイヤはその両方を武器に戦う。最初から強いのではなく、強くあらねばと歯を食いしばる彼女の姿に、巻を追うごとに胸が熱くなる。

『偽りのフレイヤ』(石原ケイコ/白泉社)

 フレイヤは泣き虫だ。小国テュールのさらに小さなテナ村で、病床の臥す母とともに暮らす彼女を、村の誰もが守ろうと決めていた。だが、周辺国を奪い支配する北の大国シグルズの脅威が彼女の運命を変える。家族同然に育った幼なじみであり、皇太子の近衛・黒騎士をつとめる兄アーロンと、一般兵の弟・アレク。フレイヤが想いを寄せていたアーロンは、想いが通じ合った矢先に、彼女の目の前でシグルズの兵士に殺される。そしてフレイヤは、病で没した王子に瓜ふたつの容貌を買われ、身代わりとして生きることとなる。

 王子エドヴァルドは華奢な見た目と裏腹に剛毅で好戦的、カリスマ性をそなえて国を率いる光そのもの。小国が生き延びるための、唯一の希望だ。ゆえに、王子を敬愛していた白騎士・ユリウスはフレイヤを必要としながらも、泣き虫な彼女に厳しい。王子を死なせてしまったこと、決して王子とは重ならない彼女に忠誠を誓うしかすべのないこと――葛藤を抱きながらフレイヤを守り続ける彼の変化が3巻の読みどころなのだが、それはすなわち、ユリウス以上の痛みと葛藤を抱えながら、彼を認めさせるほどに強さをそなえていくフレイヤの成長でもある。

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 敵国に与する宰相の策略で、守りの要たる砦が危機に陥り、かけつけたフレイヤたち。アーロンの死に様以上にひどいことはそうそう起こらないだろうと思っていたが、2巻でもなかなかの事件でフレイヤは追い詰められる。泣くばかりだった彼女が、奮起するすべとして手にした感情は「怒り」だった。燃え上がる炎は、悲しみ続けるよりも生きる力になる、ように思えるが、彼女の瞳に映る絶望に涙せずにはいられず、頼むからこれ以上ひどいことは起きないでほしいと願いながら読み始めた3巻。中盤で思わず「うそやん……」とつぶやく悲劇が起きる。このマンガは1巻ごとに「そりゃないよ……」とうなだれる事件が起きることになっているのだろうか。『ゲーム・オブ・スローンズ』ばりの容赦のなさだが、あのドラマをご覧になっている方ならわかるだろう。それでも読むのはやめられない。

 フレイヤの強さは、フレイヤだけのものだ。エドヴァルド王子の影を追いながら、けれど王子にはできなかったことを成していく。そんな彼女に触発されて、アレクもユリウスも唯一無二の強さを発揮していく――。4巻もまた予想のつかない展開が待ち受けているのだろうなあと読む側も覚悟しつつ、滾る想いは止められない。

文=立花もも