現代のミニマリストが奈良時代にタイムスリップ! 歴女・歴男じゃなくてもゲラゲラ笑える異文化バディコメディ

マンガ

公開日:2019/8/26

『あをによし、それもよし』(石川ローズ/集英社)

「令和」という新元号が発表されてから注目を浴びるようになったのが、現存する日本最古の歌集である「万葉集」。書店でも万葉集コーナーが設けられることが多くなり、改めて古き時代に思いを馳せたくなった方もいるのではないだろうか。そんな万葉集ブームに沸く令和元年には『あをによし、それもよし』(石川ローズ/集英社)で、万葉集が成立したとされている奈良時代の暮らしぶりに触れてみるのもおすすめだ。

■ミニマリストが質素な奈良時代にタイムスリップ!

 本作の主人公は、物を持たない暮らしを目指すミニマリストの山上。ある朝、エレベーターに乗った山上はなぜか奈良時代にタイムスリップしてしまい、小野老(おののおゆ)という男と出会う。そして、必要最小限の物しか持たない生活を送っていた山上は老と共に暮らしながら質素な奈良時代を満喫し、歴史を変えていくのだ。

 タイムスリップをテーマにしたコミックは多く刊行されているが、ミニマリストな山上の視点が存分に詰め込まれている本作は一風変わった仕上がりになっている。物欲のない山上と色々な物を手に入れ貴族のような暮らしを楽しみたいと考える老の対照的な思考が物語をよりおもしろくしてくれるのだ。

advertisement

 全体的にユーモラスな展開が繰り広げられるため、歴史が苦手な方でも楽しく読破できる。

 第1巻ではひょんなことから「余(あまり)」という逃亡農民も2人と共に暮らすことに。万葉集の編纂に関わったとされている大伴家持の父・大伴旅人が登場したり、現代で山上と同じミニマリストだったフジワラさんも奈良時代にタイムスリップし、藤原不比等になりきっていたことが発覚したりと、見どころが盛りだくさんであった。

 そして、最新巻となる第2巻でも山上のミニマリストっぷりと老の物欲は健在。山上のなにげない一言で老の家系も判明する。

 また、山上は遣唐使である粟田真人から、「貧窮問答歌」でおなじみの山上憶良に間違われることに…。

 自分と山上憶良が似ていることを知った山上は大伴旅人に、山上憶良になりきりながら別人として生きるべきかを相談。

 彼が出した答えがどんなものだったのかは、本作を手に取りチェックしてみてほしい。

 何不自由なく物が満ちている暮らしを好むのか、必要最小限の物に囲まれた生活で満足できるのかは各々の価値観によって異なるだろう。だが、令和という現代に生きる私たちは少々、物に囲まれすぎているように思えてならない。人が心豊かに暮らすには、もしかしたらそれほど物は重要ではないのかもしれない。そう思わせてくれる力が、本作にはある。持たないことや持ちすぎないことで生まれる幸せもあるのだと実感するとともに、自分の暮らし方も今一度見つめ直したくなった。

 さまざまな欲が渦巻く奈良時代をたくましく生き抜く、老をはじめとした歴史上の人物と山上の軽快なやり取りに、あなたの腹筋はきっと崩壊する。新感覚の異文化バディコメディは利便性が高い今こそ、手に取りたい1冊だ。

文=古川諭香