「不思議ちゃん」に萌え~♥たい理系必読のミステリー(見捨て理~)

小説・エッセイ

公開日:2012/5/10

森博嗣 S&M series

ハード : iPad 発売元 : Kodansha Ltd.
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:0円

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今から15年前。惰眠時空間を埋めるように、夜な夜な“森S&M世界”に沈潜した私がいた。
何が理系な私を熱狂読破に駆り立てたのか? F年ぶり(16進法)再読し、その解を得た。

理系ミステリーには、見捨て理~という名の理系が見捨てたい超理が隠躍するのだ。

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なぜ理系は『不思議ちゃん』に萌えるのか?
森・理系ミステリーワールドの不思議力は、1ヶ月10冊読破へと私を萌え~♥させた。

何故か?

その解は、[理系×ミステリー]という語義に潜む、宿命的で相克的な駆動力を見つめると顕われる。
(と荘厳に書き出してしまったので続けます;)

ひとつは[理系]である。
大学研究室時代は、冷たい装置に囲まれ、夜な夜な実験生活に囲まれてきた私。
卒論のテーマは、『アルミナ粉体のレオロジー特性と最終焼結体の微細構造との相関関係について』(渋すぎ;)。その冷静・客観・無感情を常とした理系研究生活が、作品のガジェットやトリックの科学的記述や主人公の思考とオーバーラップし、いちいち同郷的共感を伴って萌え~♥るのだ。

ではもうひとつの[ミステリー]には、なぜ熱狂するのか?
ミステリーはまず、「発端の不可思議」ともいえる事件情報を読み手に提示し、論理的推論のワクワク感を主人公と競争するよう駆動する。そして「結末の意外性」として、読み手が取りこぼしていた視座を提供し、「なんだ、そうだったのか~」と溜飲を下げ、事件のもやもやを終焉させ、読み手は萌え~となる…という単純なことでは、理系は萌えないのだ。

物の理(もののことわり)から真理をアプローチし、未知を既知化してきた(営為を気高いと思っている)理系(私;)は、それと同時に、既知化した瞬間に、新たな未踏の未知が顕現することを、まるで宗教信者のごとく、先駆的に確信している節がある。

つまり、「真理はいつまでたっても(未知として)隠されている」ことに萌えたいのだ。

藤井的意訳変換によれば、
ミステリー = 神秘 = 神が隠した秘密 = 人智を超越した誰かが隠した理法。
つまり、人類が見たいけれども、きっと見えないだろうなーと思う理法
=見たいけれども、見てしまうと終わっちゃうので、本当はみたくないなぁ~という理法
=ということで、あえて見ようとしない理法=積極的ではないが見捨てている理法
=見捨て理法=見捨て理~=ミステリー。
となるのです。

そのミステリーに軽やかに登場するのが、このS&Mシリーズ作品のもう一人の主人公。
不思議ちゃん。もとい、萌絵ちゃん。
その圧倒的な計算能力と、それに対置する思考の飛躍性、偏執性、遊戯性をもつ不思議性。

理系の客観を撹拌し、科学技術の公理の射程を超越する、知能を超えた知性。
この神秘なるミステリー(見捨て理~)にこそ、理系は萌絵~♥るのです。
(なんだか荘厳なレビューが、単なるオタッキーな雑言になりました;) 

森・理系ミステリーの熱狂の始源は、萌絵のみならず、犀川先生にも、犯人にも宿る、推論では到達不能な、不埒で不可思議な理法にあるのです。

では最後に締めを。

科学技術という思議的な鍵を手にした人類は、神秘巫術という不思議な鍵穴に還らざるにはいられない宿命的存在なのだ。 F


日本語と英語の両タイトルが併記されるカバージャケットの作品タイトルを見るだけで、萌え~♥と内容をかき立てられる。例えば、「封印再度」(Who Inside)。その表紙には、さらに作品内のある会話が。。。「先生、現実って何でしょう?」萌絵は小さな顔を少しだけ傾けて言った。「現実とは何か、と考える瞬間だけ、人間の思考に現れる幻想だ」犀川はすぐに答えた。 S&M(犀川と萌絵)両者に萌え~♥

ミステリーの真相を解き明かすときの問いには3つある。[Who done it?](誰がやった?)[How done it?](どうやった?)[Why done it?](なぜ、やった?)。理系ミステリーは、その技術的トリックの緻密性ゆえの[How done it?]の記述に目が止まりやすいが、実は、犯人の深層的人格(Who)と深層的動機(Why)という、不可視性の高い理路への完成度(=読者から見る犯人への興味関心・半共感度)に、萌え所がある

シリーズ第一デビュー作「すべてはfになる」では、冒頭、第一章 白い面会で、「7だけが孤独で、B、Dもそうでしょう」と、理系をくすぐる鍵が提出される。16進法とピタゴラス的数学哲理を愛しているものならば、この数字を擬人化する表現に、萌え~♥