【次マンWebマンガ部門1位!】諜報員×殺し屋×超能力者。任務のための偽装家族を描いたジャンプ漫画が凄い!

マンガ

更新日:2020/6/17

『SPY×FAMILY』(遠藤達哉/集英社)

『SPY×FAMILY』(遠藤達哉/集英社)は、ウェブサイト『少年ジャンプ+』にて連載されているコメディ&ハートフルスパイ漫画だ。本作は世界各国が熾烈な情報戦を繰り広げていた時代、架空の地域を舞台に繰り広げられる。

 主人公の〈黄昏〉(たそがれ)は、西国(ウェスタリス)のエリートスパイ。変装の名人でもある彼は、本当の名前も顔も捨て、世界平和のために暗躍していた。

 ある時、敵対している東国(オスタニア)の政治家・デズモンドに近づき、彼の不穏な動きを探れ、という任務がくだされる。そのために必要な準備が、なんと「結婚して子どもをこさえること(1週間以内に)」という、あまりにも無茶な指令が…。標的であるデズモンドと距離を縮めるため、彼の息子が通う名門校に自分の子どもを入学させ、学校の懇親会に潜入することが今回のミッションだったのだ。

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 だが、エリートスパイの〈黄昏〉は挫けない。精神科医のロイド・フォージャーという人物になり、孤児院から子どもを引き取ってワケアリの女性と結婚する。つまり、「偽装家族」を作り上げたのだ。

 これで任務に必要な「道具」は揃った。いざ名門校の入学試験に臨む〈黄昏〉であったが、この家族、それぞれに「裏の顔」を秘めていて――。

 孤児院から引き取った子ども、アーニャは、実は人の心を読むことができる超能力者。さらに、市役所勤務のおとなしい女性・ヨルは、実は凄腕の殺し屋だった。彼女は自分の殺し稼業が露見しないよう、世間体のためにロイドと結婚するのだ。ヨルはロイドのことを、妻に先立たれたごく善良な男性だと信じ、アーニャもロイドの実子だと思っている。

 この状況下で、お互いの裏の顔を知っているのは、“人の心が読める”アーニャだけ。だが、アーニャは幼いので、スパイや殺し屋の存在をアニメの世界の住人のように捉えている。

 特殊過ぎる経歴の3人が、お互いの「隠している素性・能力」を知らずに、「平凡な家族」を演じても、スムーズにいくはずがないのだ。なにせ、「平凡」であることをまったく知らない3人なのだから。

 子どもの扱いに慣れていない〈黄昏〉が、アーニャの「子育て」に奮闘する様子も初々しいし、少し浮世離れしている妻・ヨルとの、ほんわかした関係も微笑ましい(さらに、実はお互い腹の底を見せ合ってないというところがかなりいい…)。

 また、初めてスパイの任務に他人を関わらせ、「相手の行動によって任務の成否が決まってしまうこと」に緊張する様子も、それまで孤高の諜報員であった〈黄昏〉の哀しさと、愛おしさを感じさせる。

 本作の魅力は、「裏の顔」があるキャラクターたちが、お互いの素性を知らずに偽装家族になるという設定だけでなく、かりそめの家族を演じる上で、3人がその「温かさ」を知っていくというストーリーにあるのではないだろうか。

 本物の家族ではないからこそ、家族の「温かさ」や「難しさ」を浮き彫りにして、その繋がりの「深さ」を、読者は改めて感じることができるのだ。なおかつ、少年漫画らしいアクションもあり、絵もカッコ可愛くて、ギャグもあれば、ほろりとするシーンもあり…これでおもしろくないわけがない。今一番アニメ化してほしいジャンプ作品である。

文=雨野裾