個性あふれるキラキラネームの子供たち。彼らの未来もキラキラなのか?

文芸・カルチャー

公開日:2019/8/30

『キラキラネームが多すぎる 元ホスト先生の事件日誌』(黒川慈雨/宝島社)

 2012年、新語・流行語大賞に「キラキラネーム」がノミネートされた。キラキラネームとは、一般的な読み方や漢字の使い方をしない名前のことを指し、「姫舞(ぷりま)」や「蒼星(あーす)」など、英語の日本語読みなどに漢字を当てることが多い。名前には親のさまざまな願いや想いが込められる。我が子が特別な存在だからこそ、ほかの人とかぶらない個性的な名前をつけようとするのだろう。『キラキラネームが多すぎる 元ホスト先生の事件日誌』(黒川慈雨/宝島社)は、そんなキラキラネームの子供たちを描いた作品だ。

 主人公の皇聖夜(すめらぎせいや)は、元ナンバーワンホスト。「皇聖夜」はもちろん源氏名で、本名は上杉三太という。彼は小学校の先生に転身し、30人全員がキラキラネームを持つ1年生のクラスを担当することになった。個性的な名前の児童たちとともに慣れない教師生活を始めた三太。ある日、彼は学校の周辺で動植物が傷つけられる謎の事件が発生していることを知る。しかも、犯人として浮上していたのが三太のクラスの児童・公人(ギフト)だった。担任として事件を追いかけていく三太だが、事件は衝撃的な展開を迎える。「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉に選ばれたスクールミステリーだ。

 最初この作品を知ったとき、キラキラネームの児童に元ホストの先生が登場するなんて、きっと軽い雰囲気の物語なのだろうと思った。しかし、実際に読んでみると、思っていたより考えさせられる内容だった。特に、以下の一文。

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何も持たずに生まれてくる子供なんていない。

 これは、本作に繰り返し登場するセリフだ。誰しも良いところを必ず持っていて、才能や長所のない人はいない。この一文を読んだとき、そうポジティブに捉えていた。しかしながら、読み進めていくうちにそんな単純な意味ではないことがわかった。

 実は、先述した「姫舞(ぷりま)」や「蒼星(あーす)」は、本作に登場する子供の名前だ。こんな名前でも、彼らの中身は三太の小学生時代のクラスメイトと何も変わらない、ごく普通の小学1年生。入学初日の元気な子供たちの様子を見て、三太はこう言う。

いいよな、きみらは元気で。
大人ってのはな、きみらと違って、いろんな重たいもの背負って生きてんの。
まあ、まだわかんないだろうけどさ。
いずれ大きくなればわかるよ。

 しかし、三太は学校の近辺で発生する事件を探っていくうちに、子供たちが持つ各家庭のさまざまな事情を知ることになる。

 30人のクラスの中には、両親にたっぷりの愛情を注がれて育っている子がいれば、親からの過度な期待を背負わされている子や、複雑な家庭環境の子もいる。一見するとみな同じように名付けられたキラキラネームながら、生まれたときからそれぞれがそれぞれの事情を抱えているのだ。そんな彼らに三太は何と声を掛けるのか。事件の真相はもちろん、最後の学級会での彼の言葉にも注目してほしい。

 大人が子供に与える影響の大きさを浮き彫りにした物語。大人の身勝手に振り回されるのは子供たちだ。本作を読んで、自分の子供にしっかり愛情を注いであげたいと思うとともに、愛情たっぷりに育ててくれた両親に感謝したいと思った。

文=かなづち