シリーズ累計30万部突破! 意外な人の過去も明かされ、ますます謎と波乱がひしめく『後宮の烏』第3巻

文芸・カルチャー

2019/8/31

『後宮の烏(集英社オレンジ文庫)』(白川紺子/集英社)

 どんなに愛情を注がれても、胸の奥底に欠けている部分が埋まることはないだろう――そんな諦念を抱いて孤独に生きてきた少女・寿雪の“烏妃”としての運命を描いた小説『後宮の烏(集英社オレンジ文庫)』(白川紺子/集英社)。謎が謎を呼ぶ中華風世界を背景に語られる幻想譚はまたたくまに人気となり、シリーズ累計30万部を突破した同作、最新3巻でも思いもよらぬ真実と裏切りが展開していく。

 烏妃とは、後宮で生きながら決して夜伽をすることはなく、皇帝でさえかしずかせることのできない存在。しかも寿雪は、抹殺を命じられている一族の出。母を殺され、絶望にくれていたところを次の烏妃と見いだされ、王宮に連れてこられた。先代の烏妃・麗娘は愛情をもって寿雪を育ててくれたけれど、侍女さえおいてはならぬ、孤独に生きねばならぬと厳しく言いつけ、この世を去った。だが、現皇帝・高峻との出会いをきっかけに、物語は動き出してゆく。

 高峻もまた、母と友を殺された憎しみを抱いて生きてきた、孤独な男だ。決して近づいてはならぬと言われていた烏妃と皇帝が“友”として関係を育んできたのが2巻まで。高峻だけでなく、侍女の九九や宦官の温螢、衣斯哈など側に置くものが増え、麗娘の言いつけを破っているうしろめたさを抱えながらも、寿雪は少しずつ生きる光を見出してきた。守りたいものが増え、孤独につっぱっていた心がゆるむのはとても幸せなことだ。けれど同時に、烏妃としてあるべき姿もゆるんでいく。その、そこはかとない不安がたちあらわれてくるのが3巻だ。

 3巻で主軸となるのは「八真教」をめぐる事件。憎しみや後悔をすべて引き受けてくれるという教主の話を聞いて、寿雪は言う。「引き受けて、その感情はどこへ向かうのだろうな」と。「恨むな、怒るなというのは、なにも感じるな、考えるなと言っているに等しい」とも。それはかつて母を見捨てた後悔と、理不尽な運命への怒りと絶望を抱えて生きてきた――捨てたくても捨てられない寿雪だからこその、重みあるセリフだ。事実、彼女の懸念は現実のものとなっていく。折り合いのつけられなかった、むりやり忘れ去ろうとした感情が、さまざまな怪異と事件を引き起こすのだ。さらにその過程で寿雪は、烏妃としての力が実際に弱まっていることにも気づかされていく。

 不器用ながらも誠実に、寿雪は人々の心を救ってきた。教主のようにただ忘れさせるのではなく、ときに途方もない痛みを負うことになっても、まっすぐ現実と向き合い、乗り越えていくすべを与えてきた。だからこそ彼女のまわりには、危険視して命を狙う者以上に、慕う者が増えていく。その彼女が、運命にとらわれたままでいいはずがない。

 高峻の側近・衛青の過去、八真教と思いがけぬ人物を繋ぐ糸――まだまだ謎と波乱がひしめいており、4巻以降も気が抜けないが、この先何が起きるとしても、寿雪の優しさや得たぬくもりは、弱さではなく強さにかわると信じたい。そう思わされるラストだった。

文=立花もも