最凶の「山怖」が登場! 恐ろしい“なにか”が蠢く奇怪な山々を舞台にした『マガマガヤマ』

マンガ

公開日:2019/8/31

『マガマガヤマ』(小池ノクト/幻冬舎コミックス)

 山は神秘的な場所だ。その神聖さ故に、ときに“霊界への入り口”と呼ばれることもある。『マガマガヤマ』(小池ノクト/幻冬舎コミックス)の舞台は、その名の通り禍々しい山々だ。

 第1話、真夜中に峠道を運転していた男は無灯火で走行していた自転車を撥ねてしまう。運転手は驚いてかけ寄るが、すぐに倒れている男の様子がおかしいことに気が付いた。自転車の男は運転手への不満と怒りを叫びながら、ゲラゲラと笑っていたのだ。しばらく黙って聞いていた運転手だったが、最後は自らの保身のために自転車の男の首を絞めて殺してしまった。

 隠蔽方法を考えあぐねていた運転手は、近くを通りかかった坊さんと共に遺体を埋めることにした。無事に遺体の処理を終えた男は、急いでその場を立ち去ろうとする。

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“もう1体運ばねばなりません”
“このままではあなたはきっと迷います 私から離れてはいけません”

 引き止めようとする坊さんの言葉には耳を貸さず、運転手の男は車を置いている場所まで息も絶え絶え走る。やっとの思いで峠道まで帰ってきた男は、車を見ながら呆然と立ち尽くす。車の中には、“自分”がいたのだ。血まみれになり、ハンドルに突っ伏した状態の自分が……。

“帰るぞ…家に…元の生活に…”
“この道を行けば…このままずっと…”

 最終ページには、山道をとぼとぼと歩く男の姿が描かれていた。おそらく、彼は坊さんの言葉通り、仄暗い山の中で迷い続けるのだろう。

 本作は、1話完結の短編ホラー。前述した第1話のほか、立ち入り禁止の底なし沼を描いた「小梅沢」や、ある祭壇を祀っている家族を描いた「猿様」などが収録されている。短編作品でありながら、ゾクッとした恐怖感が持続するのは圧倒的な作画で描かれる登場人物の“表情”のおかげだ。一度見てしまうと、読み終えたあともまぶたに焼きついて離れない。

 また、誰にとっても身近な存在である“山”を舞台に物語が展開されていることも、恐怖を助長するポイントなのかもしれない。

 テンポ良く読み進められる本作は、グロテスクなホラー描写が苦手な方にもおすすめだ。ただし、山に行く予定がある方は十分ご注意を……。

文=山本杏奈