数学×料理で神の領域へ!? 数学的思考で絶品ナポリタン爆誕! まさに飯テロな新しい料理マンガ

マンガ

更新日:2023/9/5

フェルマーの料理』(小林有吾/講談社)

 神に挑む料理を生み出すのは“数学的思考”! まったく新しい料理マンガが『フェルマーの料理』(小林有吾/講談社)である。

 数学者を目指した少年が謎のシェフとめぐり逢い、「数学」と「料理」が交わる。その時開いた扉とは…。

 大ヒットサッカーマンガ『アオアシ』(小学館)作者の新作を紹介する。

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■料理を数学で解き明かす! 東大を目指していた主人公がシェフの道へ

「数学の道でこの世の真理を見出すような人間に、僕はなれない…」、高校には首席で入学。東大を目指し、そして数学者を志していた北田岳(きただ・がく)が本編の主人公だ。

 彼は数学オリンピックの試験中に心が折れ、白紙で答案用紙を提出。自分は数学が好きなだけだったのだと絶望する。これが自身の通う高校の学長の怒りをかい、学費免除の権利を失う。

 学食でバイトをする無為な日々を過ごしていたある日、岳は朝倉海(あさくら・かい)と運命的な出会いをはたす。彼はジャパンフレンチの新星と呼ばれる天才シェフだった。海は学食のまかないを食べて岳の才能を見出し、料理を作らせた。

 岳は数学者になる夢は諦めていた。ただ子供の頃から磨き続けた“数学的思考”が、彼の料理を圧倒的な高みに押し上げる。

 本作で言う数学的思考とは、答えからその式(解法)を組み立てることである。岳は料理のできあがりを答えとし、逆算して式=レシピを組み立てていく。

 学長の食事会でナポリタンを作った岳は、そのとき夢中で作った料理への衝動を抑えられなくなる。かくして数学者ではなく、シェフへの道を歩み出していくのだ。

 岳は海の店で働くことを決意した。ただこの海は謎めいた言動で岳も読者も惑わせる。料理のヒントを与えつつ、本気で陥れようともするのだ。彼は岳にとって本当に尊敬できる師になるのか、それとも…。

■目覚めた才能で真理の扉を開け、神に挑む

 岳は思考に思考を重ねたとき、異能の才を出現させる。何かにとり憑かれたような、ただならぬ雰囲気を身にまとい、“入りこみ”、周囲を圧倒する結果を出す。

 岳は意識の中で数字の渦に飲み込まれつつ、数式を解くように楽しんで 料理の味を導き出す。答えである味に自分なりの式でどうたどりつくのか、もっと美しい式はないのか、発想の飛躍になるヒントはないのか考え抜く。

 数学(数式を解く)と料理は、理論と感覚、両方のバランスをもって完成へと向かうという点で酷似していた。

 料理の“理論”に楽しさという“感覚”を加えられるのが岳の才能なのだ。結果、理論だけの凡庸なメニューとは一線を画した、圧倒的な一品が完成する。岳を料理の世界へ誘う海はこう言う。

「俺たちの挑むべきは数学と同じく…真理の世界だ」
「俺たちは料理を以って神に挑む」

 本作のタイトルの元となったのは、フランスの数学者、フェルマーの定理だ。天才と言われた多くの数学者が誰一人として、フェルマーの死後300年以上もの間、証明することも反例を挙げることもできなかった、つまり答えがあっても式がわからなかった定理だ。

 フェルマーに挑んだのは、この世の真理を見出すような数学者たちだ。岳はその才能で、彼ら数学者たちのように、誰も到達しない料理の真理…その扉を開けようとしている。

■万人におすすめ! 新時代の料理マンガで描かれる馴染みのある味

 物語はまだ序盤で、今後の展開、続きが気になって眠れなくなるかもしれない。ただそもそも夜にこのマンガはおすすめできない。ナポリタン、お茶漬け…多くの読者に馴染みのある味が描かれているからだ(しかもものすごくおいしそうに!)。

 作中の料理の詳細なレシピページもあり、作れそうなのもいい、いやだめだ、深夜に作って食べたくなってしまうかも。言ってみればセルフ飯テロである(笑)。

『フェルマーの料理』は、数学的なアプローチをするという新しい料理マンガだ。ただ誰もが共感でき、楽しめる作品である。ぜひ試してみて欲しい。できるだけ昼間に。

文=古林恭