任天堂Wiiがお母さんに敵視されなかったのは「岩田さん」の“暴論”があったから? ゲームファン必読の岩田さんのことば

ビジネス

2019/9/4

『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』(ほぼ日刊イトイ新聞:著・編、100%ORANGE:イラスト/株式会社ほぼ日)

「ピンボール」「バルーンファイト」「星のカービィ 夢の泉の物語」「MOTHER2 ギーグの逆襲」「ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ」「脳を鍛える大人のDSトレーニング」…いずれも、あまりに有名なゲームタイトルだ。

 これらすべてに携わった、任天堂の元代表取締役社長・岩田聡氏が急逝して4年以上経った。氏は、その偉業と人柄によって、多くのファンや関係者に愛されていたが、主役は自分ではなくゲームだという考えから、あまりメディアで語ることはしなかった。そのため、氏の貴重な思考や哲学は、関わりがあった一部の人たちの間でしか受け継がれていない。

 このほど、4回目の命日である2019年7月11日を機に、氏が残した決して多くはない「ことば」をかき集め、丁寧にまとめた本『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』(ほぼ日刊イトイ新聞:著・編、100%ORANGE:イラスト/株式会社ほぼ日)が出版された。本をつくったのは、氏と親しかった糸井重里氏主宰のほぼ日刊イトイ新聞。岩田氏は、求められても著書を出す意思を示さなかったという。しかし、ゲームの価値や役割が改めて問われる昨今、ほぼ日刊イトイ新聞は、岩田氏と親交があった自分たちが今“岩田さん”のリアルなことばをまとめた本をつくり、後世に残すべきだと考え、本書を上梓した。岩田さんが本書を認めてくれると信じて。

 さて、数ある任天堂のゲーム機のなかで、10数年前にヒットしたゲーム機といえば、Wiiである。

 Wiiのコンセプトは「家庭で敵視されないゲーム機」と知られているが、実際、岩田さんは親に敵視されないよう、Wiiに電源が勝手に切れてしまう仕様を付けてはどうだろうか、と考えたそうだ。親は口癖のように「ゲームは1日1時間」と言う。Wiiに、ゲームを始めて1時間後に、本当に電源が切れてしまう仕様が実装されていたら、どうだっただろうか(データは完全にセーブされたうえでのこと、というところに岩田さんのユーザーへの優しさが感じられる)。

 岩田さんは、ゲーム会社の社長にあるまじき考え、と自嘲しながらも、ゲームづくりにおいて「暴論からはじめる議論は無駄じゃない」と確信していたようだ。

それぐらい考えを極端に振り切って議論をしないと新しいことはできないと思ったんです。少なくとも、そういう意識を持って話し合うことは価値がある、と。

 ユーザーに寄り添いながらも、ゲームに対しては圧倒的な熱量で接し続けた岩田さん。この議論は、結果として、どのゲームをどれだけプレイしたかがみんなにわかる「プレイ履歴」として実装された。

「ゲームは1日1時間」という約束を守るために強制的に電源が切れてしまうよりも、「プレイ履歴」による親子のやり取りを通じて約束を守る流れができるほうがずっと魅力的だということになったんですね。

 Wii開発においての、岩田さんのさらなる暴論は、いつでも遊び始められる「眠らないマシン」の実現だった。ゲーム機は動くと熱をもつ。しかし、夜中にゲーム機のファンが回っていると、母親が「つけっぱなし!」と怒るだろう。暴論から始まった議論は、熟成されて「夜のあいだはファンを回さない」仕様を誕生させた。

 本書を読むと、岩田さんの魅力の虜になり、会ったことがなくても思わず「岩田さん」と呼んでしまいたくなる。

 ゲーム制作者やゲーム制作を目指す人はもちろん、広くゲームファンに読んでもらいたい1冊だ。

文=ルートつつみ