高橋留美子、浦沢直樹、押見修造、田亀源五郎……。数々の作家たちに影響を与えてきた、偉大なマンガ原作者・狩撫麻礼とは?

マンガ

更新日:2019/9/6

『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP, STAND UP!!》』(狩撫麻礼を偲ぶ会/双葉社)

 2018年1月、マンガ界をけん引してきたひとりのマンガ原作者が、この世を去った。

 狩撫麻礼。印象的なペンネームを持つ彼は、1979年に『East of The Sun, West of The Moon』でデビューを果たし、以降、第一線をひた走ってきた。『迷走王ボーダー』『オールド・ボーイ』『湯けむりスナイパー』『天使派リョウ』『ハード・コア』など、実写映像化された作品も多く、このことからも、いかに厚い支持を集めていたかがわかるだろう。

 狩撫さんを支持していたのは読者だけではない。マンガ家や編集者など、業界内にも大勢のファンがいた。彼の作品から多大な影響を受けたクリエイターたちも多かった。そんな作家の死は、まさに衝撃。いまだに信じられないという人も多いはずだ。

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 そこで生まれたのが、『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP, STAND UP!!》』(狩撫麻礼を偲ぶ会/双葉社)である。本書は、作家・狩撫麻礼を偲び、彼が遺した作品を今後もより深く読み継いでいけるように、という想いから作られた一冊だ。

 本書は実に大勢のマンガ家や小説家、編集者たちの証言、寄稿により構成されている。高橋留美子さん、松本大洋さん、かわぐちかいじさん、ハロルド作石さん、浦沢直樹さん、押見修造さん、田亀源五郎さん、カネコアツシさん、角田光代さん、ブルボン小林さん……。まだまだここには書ききれない全60数名の人物たちが、みな、狩撫さんへの想いを吐露している。そのエピソードは実にさまざま。深夜にかかってきた一本の電話によって創作意欲を高めることができたというものや、狩撫さんと一緒にカラオケをしたというプライベートなもの、また、狩撫さんの作品にどれほど影響を受けたかというものなどなど。

(c)押見修造/双葉社

(c)田亀源五郎/双葉社

 そこに共通するのは、狩撫さんへの愛だ。みな一様に彼を愛し、その死を哀しんでいる。そして、志を受け継ぎ、これからのマンガ界を盛り上げていこうと奮起もしている。

 また、必読すべきは、高橋留美子さんと山本貴嗣さんの対談だ。ふたりはデビュー前の狩撫さんを知る貴重な人物。「小池一夫劇画村塾」にて、作家デビューを目指す仲間だったという。その同期が語る狩撫麻礼像を知れば、謎多き作家の意外な一面に触れることができるかもしれない。

 合間には狩撫さん直筆の原稿も掲載されている。普段、マンガの原作を目にする機会はなかなかない。それだけでも貴重な機会であるうえに、それが大作家のものとなれば、マンガファンにとって垂涎ものだろう。

 本書は追悼本だが、決して悲壮感に満ちているわけではない。もちろん、哀しみをたたえながら寄稿している作家もいるが、全体を通して、情熱と不思議な生命力に満ちている。それはそのまま、マンガを通して「生きること」を描いてきた狩撫さんの作風にも通ずる。

 現在、活躍する大勢の作家たちに影響を与え続けてきた、狩撫麻礼。その人となりと作品に込められたメッセージ、それを知ったうえで、あらためて狩撫作品を読み直してみたい。

文=五十嵐 大