恋愛経験ゼロの編集者が“まんがみたいな恋”をする――!? 少女まんがの編集部を舞台に描かれる胸キュンラブストーリー

マンガ

公開日:2019/9/5

『私が恋などしなくても』(一井かずみ/小学館)

 大人になってもやめられないもののひとつに「少女まんが」がある。イケメンで少し強引な彼に胸が高鳴るセリフを言ってほしい…。図書館で同じ本に同時に手を伸ばしたことがきっかけで、恋が発展してほしい…。そんな乙女な妄想を抱きながら、少女まんがの世界に浸る時間は、三十路を超えた今でもとても大切なものである。辛い現実をしばしの間忘れさせてくれ、読後は「明日も頑張ろう」と前を向ける――。「胸キュン」の少女まんがには、そんなパワーと効能が秘められている気がしてならないのだ。

 一井かずみさんの『私が恋などしなくても』(小学館)は、そんなときめきを心ゆくまで堪能できるまんがである。

 本書の主人公は、恋愛経験ゼロにもかかわらず、女性コミック誌の編集者として働く茅野結芽(ちのゆうめ)・25歳。少女まんがを読まずに育った彼女は、恋愛「しか」ない誌面にショックを受けつつも、理詰めでラブストーリーに取り組み、編集者として成果を出そうと、3年間、無我夢中に仕事をしてきた。

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 そんなある日、結芽は、2年間担当していた作家・素子先生の連載の打ち切りを告げられる。成績不振により、担当替えも決定し、新担当はなんと「彼が持つと作家は化ける」と噂のイケメン若手エース編集者・成川映(なるかわあきら)(27)が任命されることに。成川は、素子先生と会った初日から、結芽の思いも及ばない視点で作品を細かく批評し、編集者として、圧倒的な力の差を見せつける。

 ショックを受けてその場を去った結芽に、追いかけてきた成川は、いきなりキスをして、自分とつき合ってみないかと提案するのだが――!?

 本書は、全てが「恋愛」にまみれる少女まんがの編集をしながらも、25年間彼氏がいなかったため、「恋とは何か」を自問自答しながら、葛藤し、成長していく結芽の姿が描かれる。実は成川の告白は、完全に純粋なものではなく、数々の作家から言い寄られるため、「告白除けとしての彼女がほしい」という魂胆も含まれていた。だが、本当は「詩」が好きで、文芸局への異動を切望している結芽は、そんな彼の企みを知っても、優秀な成川とつき合えば、仕事の面で成長できるかもと期待して、つき合うことを決意するのだ。

 成川との交際は、憧れと劣等感、焦燥感、そしてそんな人が何故か自分に構ってくれる優越感があり、結芽はこれまで以上に感情が忙しくなる。だが、自分の中に少しずつ“恋人”の居場所をつくり、キスを重ね、同じ時間を共有することで、「好き」とは一体どんな気持ちなのかを、リアルに体験していく姿は、なんだかとても可愛らしく、応援したい気持ちになった。恋も仕事も、素直に一途にステップアップしていく彼女は、この先一体どんな変化を遂げるのか。超イケメンでスゴ腕の編集者・成川の格好良さに心を奪われながら、楽しみに続きを待ちたい。

文=さゆ