「人怖」を描き出す作家・洋介犬! 『外れたみんなの頭のネジ』で描かれる人間の狂気が恐ろしすぎる

マンガ

更新日:2019/9/10

『外れたみんなの頭のネジ』(洋介犬/泰文堂)

 世の中には、決して触れてはいけない怖いものや場所が存在する。心霊スポットや動画、呪いの人形などがまさにそうだ。唯一の救いは「これらが怖いものであると事前に認識可能な点」であろう。では、狂気に満ちてしまった人間はどうか。昨日まで正常だと思っていた人がある日突然、理解不能な行動を起こす。狂気に満ちた人間のお決まりだ。これこそ現存する怖さの中で“最強”と言えるのではないだろうか。

 マンガ家の洋介犬(ようすけん)さんは、そんな狂気に満ちた人間の世界を描く天才と言っても過言ではない。2015年に連載をスタートさせた『外れたみんなの頭のネジ』は、まさに狂気な世界を余すことなく詰め込んだ作品だ。読んでもらえれば、その天才ぶりがうかがえるだろう。

 主人公は女子中学生のミサキ。彼女はある日突然、自分の周りの人間が狂ってしまったことに気づく。そして彼女にもその影響が出始め、部屋に悪魔のようなものがいるのが見えてしまうようになる。悪魔はミサキに「俺が見えているってことは、狂っているのはお前の方じゃないのか?」と告げるも、ミサキは断固否定する。なぜなら彼女は確実に周りが狂っていると言い張れる経験をしているからだ。

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 ミサキは今までの出来事を悪魔に語り始める。異常なラブレターを見せても全く動じない担任、人間であることを捨て、ぬいぐるみになってしまったクラスメート、祖父母と夫の身体の一部で子どもを作った母親、誰かに撮られている自殺の実況動画など、ミサキが見聞きしたエピソードはどれも「狂気的すぎる」という言葉が似合う……。私はこんな世界で生きていける自信はない。

 第1巻ではオムニバス形式で様々な狂気体験が描かれ、終わりを迎える。しかしこの作品は連載マンガ。ところどころに世界が狂気に満ちた原因と思える謎が隠されている。キーワードは、いきなり建てられた「鉄塔」と「六月十三日」。世界はどうして狂ってしまったのか、ミサキはなぜ狂わなかったのか、それともミサキの方が狂ったのではないか。すべての謎は次巻からじっくりと明かされていくであろう。

 本作は現在第8巻まで発売中だ。ちなみに洋介犬さんは第8巻発売と同時に以下のようなコメントを残している。

“8巻です。「末広がり」と吉される「8」という数字ですが、横にすれば「∞」となります。この巻もめまぐるしく広がるように本当に「色々なことが起こる」ようになっております。どうか、思考のチューニングをしっかりとしてお臨みください…。洋介犬”

 このコメントを見る限り、洋介犬さんの頭の中にはより狂気に満ちた世界観が思い描かれているのだろろう。まだ本作を手にしていない人は、ぜひ第1巻から読み進めてほしい。きっと彼の世界観に魅了されるはずだ。

文=トヤカン